今俺にできること

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 なぜコジコジは配信を辞めてしまったのであろうか?  コジコジとは動画配信アプリポコチャのライバー。名もなき美少女コジコジである。  B帯に落ちたら配信はやめると言っていた。  コジコジはA帯の崖っぷちであった。-2でランクダウンB帯であった。  ファミリーボードの書き込み。 ――えっ、辞めちゃうの? リスナーのゆぶる ――引退しないでよお願い。ゆか大好き。世界一番愛してるよ リスナーの会長なお  ゆかとはコジコジの本名である ――「卒業?引退?転生?ニューワールド展開、どちらにせよ参加せねば!」リクエスト曲;AI、アルデバラン 訳の分からぬコメントだがこちらもそうこうぞうというリスナー ――メンタル無事? 女性リスナーのまいちゃん ――ゆかぴょんおはよう ポトフのコメント ――ランク下がっちゃうやん ゆぶる ――やだーよ引退ゆかするなよ なおはしつこい ――コジ、本当にさよならなのね… 魚卵というリスナー。 ――コジコジちゃん引退はいつでも出来るだろう!今はどお切り抜けるか ハンドルネームケンシロウというリスナー。 ――7000人のフォローワーが配信を待ってるよ リスナーのかつおっち  ファミリーボードにリスナーが書き込みをしてるが、コジコジは沈黙を貫き通している。  フォローワーが7000人いると言ったって毎日遊びに来るリスナーは限られていた。  30K取ってくれるリスナーが50人でもいればコジコジは配信を続けていたであろう。  30Kになるには金額にして6万円の課金が必要となる。  書き込みをしているのは低リスナーばかりであった。  低リスナーであってもコアを取ってくれるリスナーが300人いれば何とかなったかもしれない。  アイテムを投げるだけが応援ではないと常にコジコジは言っていたが、実際アイテムを投げてもらわなければA帯の維持は難しい。  コジコジは自らのアカウントは消さず残してあった。配信をためらっているのであろうか。  ランクもE1から始め直さなければいけない。二か月も配信を休んでいたのだから、こればかりは仕方ない。  またメーターと戦い続けなければならない日が来ることを思えば気が重いに違いない。  コジコジは思い返したことだろう。重課金リスナーが何人いるであろうか?  黒幕にポトフ、金さんに孔、ぱいせんに俺。そうこうぞうもいた。  黒幕はさっぱり投げなくなってしまった。  俺には理由がわからない。  コジコジには7000人のフォローワーがいた。と言っても配信に遊びに来てくれるリスナーは定着していた。  毎回の配信に遊びに来てくれるリスナーは15人弱であろうか。少ない時は10人。多い時で30人。日によってばらばらだった。  一万円の課金をしてくれるリスナーが100人いればA帯は安泰であろうが、こればかりは仕方がないことなのかもしれない。  常日頃から思っていたことがある。コジコジはライバー一本で生活しているのだ。  ポコチャの配信だけで生活しているという事を本人の口から直接聞いた。  コジコジの事を本気で応援しているのならば、一万円の課金ぐらいしてもいいではないか?  ファミリーボードの書き込みはなんか違うような気がしてならない。10Kにもなっていないリスナーのコメントに俺は虫唾が走った。  コジコジがライブ配信一本で生活していることを思えば、みんなが待ってるよなんて、無責任なコメントをファミリーボードに打つリスナーの気が知れない。  15Kでも取ってれば別だが、低リスナーのコメントに俺は腹立たしさを覚えた。  俺は生活保護受給者であったが、生活を切りつめできる限りで応援をした。時には働きにも出た。おかげでレインボーにも二か月連続でなった。  40Kでレインボーに色が変わる。金額にして10万円。  俺はコジコジが好きで投げてただけだが、配信が面白くて、また頑張っているコジコジが好きで応援してただけに過ぎない。  ただ他のリスナーはコジコジの生活を考えたことがあるのだろうか?  ライバー一本で生活しているという事実。  コジコジはライブ配信が好きだと言った。リスナーの期待に応えたいに違いない。だが、その裏には自分の生活が懸かっているのだ。リスナーはその事実を踏まえた上でコメントを書き込まなければいけない。  コジコジが配信を辞めてしまってから、俺も働きに出るのを辞めてしまった。  パチンカスの孝之からは年がら年中電話がかかってくる。 ――清水さん、来週から一週間だけ現場に出てくれませんか? ――何度言ったらわかるんだ!俺はもう働かないと言ってるだろうが ――コジコジが配信を辞めてしまったからですか? パチンカスは俺がかなりの金額を課金して、コジコジにアイテムを投げていたのを知っている。 ――俺には俺でやりたいことがあるんだよ ――何ですか? やりたいことって そんなこと聞いてどうする。黙ってろ! ――もう俺の事はほっといてくれ ――7月から警備の仕事があるみたいなんですよ、清水さん出ます ――ほんまにしつこいな、今は何も考えたくないんだ。働きたくなったら俺のほうから連絡する。それまでそっとしておいてくれ ――わかりました。また何かあったら電話しますね もう二度と電話してくんな!このパチンカスが  パチンカスは俺の事を友達と思っているみたいであったが、俺はただの知り合いとしか思っていなかった。一度電話に出なかったら、のこのこと俺の部屋まで足を運んでくるので、うっとうしいが、電話がかかってかかってくるたびに、とりあえず、 受話しているだけに過ぎない。  俺にできることはないだろうか?今、コジコジがどんな気持ちでいるかもわからない。  ファミリーボードにすら書き込みがない。  DMを送ってみた。細心の配慮をしたつもりだった。 ――このまま何事もなく配信を辞めてしまうのかい? 俺にできることだったらなんだってする。コジコジの配信がないとつまらん。コジコジの配信は俺を救ってくれたんだよ。ギャンブルを辞めることができたし働くようにもなった。もし配信を復活するのであれば前もって知らせてほしい。  どこかプレッシャーを与えてはいないであろうか? コジコジはB帯に落ちたら配信をやめると言っていた。だが、実際はA帯のまま身を退いた。コジコジにはコジコジの美学があったのかもしれない。でも心のどこかでこのまま終わるコジコジではないと確信していた。  三日経っても返事はなかった。  コジコジが配信を辞めてから二か月が経とうとしていた。  仕事をを辞めて俺はただぼんやりと、読書をしたり映画を観て一日を過ごしていた。  名もなき美少女コジコジのアカウントは残っている。まだ配信を辞めたとは限らない。  俺にできることはないか? 再び考えた。そうだ小説を書こう。名もなき美少女コジコジの小説。それをSNSで拡散させて、コジコジの事をいろんな人間に知ってもらおう。  フォローワーを増やすことができるかもしれない。  もともと俺の夢は小説を書くことだった。  返事のないDMだとは知っていたが、コジコジの目には触れているはずである。  でもなぜコジコジはA帯のまま配信を辞めてしまったのであろうか? がけっぷちとはいえ後一度マイナスを食らってもB帯に落ちることはなかった。そこにはやはり、コジコジの美学があったのかもしれない。  このまま終わっては駄目だ。コジコジは最高のエンターテイメントなのだから。  元はS4まで昇り切ったライバーであるのだ。  成りあがれコジコジ!  翌日から俺は名もなき美少女コジコジを題材にした、短編小説を書きまくった。  一作目は自らがタイトルの、名もなき美少女コジコジである。その作品をエブリスタという投稿サイトに投稿した。  ポコチャの他枠に遊びに行って、俺は自分の書いてる小説とサイトを吹聴して回った。ここで言う他枠とはコジコジの配信以外の枠をさす。  最初は少なかった読者が徐々に増えてきた。  名もなき美少女コジコジの知名度をあげて配信に遊びに来てもらう。  俺に目標ができた。でも当の本人のコジコジが配信を復帰してくれるかどうか? それだけが障壁となった。  コジコジと電話で話すことができたら?  俺に今できることといったらやはり小説を書く以外になかった。  コジコジの配信を視聴できなくなり、俺の一日はだらしのない一日に変わっていたが、今は違う。本来の自分の夢である小説家になろうと毎日パソコンと向き合っている。  これもまたコジコジと出会うことができた奇跡である。  それは一つのドラマでもあった。  俺は今もコジコジの復帰を信じて毎日パソコンと向き合っている。
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