野干(やかん)【前篇】

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野干(やかん)【前篇】

――(うつつ)の世を跋扈(ばっこ)するは人や獣のみならず。(かそ)けき彼らもその一つ。  彼らは怪異。人の身近に紛れ潜み、その姿は獣や果実、雫などに至るまで。それも見えぬ者にはただの(とぎ)。  彼らに目的など無い。ひと同様、その理の中で揺蕩うものに他ならぬ――  天を覆う森の枝葉が、煌めく陽光(ようこう)を刻んでいる。相変わらず機嫌のいいお天道さんだ。しかしここらの農家は、そろそろ雨でも欲しいとこだろう。  俺はいま、とある里へ向かうため山を越えようとしている。そして思うのは、樹叢(じゅそう)をものともしない鳥たちが羨ましい、ということ。あんなふうに飛べりゃ、もっと楽に怪異の噂を追って各地を巡れるんだが……いや、待てよ。そもそもこの考えが、地に足つかんということか。はて、よく言ったもんだな。
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