野干(やかん)【前篇】

2/21
前へ
/35ページ
次へ
 やがて山腹の開けた場所につくと、(そば)から見える向こうには、人の往来する里が窺えた。あと少しばかり下れば、あそこに着くだろう。しかし残念なことに、用があるのはそこじゃない。もう少し先に進まにゃならん。  地図ではこの先、川はあるが橋はない。雨に降られ大水(おおみず)となりゃ、船渡しも川()めをくらうだろう。晴天が続いているのが幸いか。  つまりこの具合なら、そこの里で一休みできる。というか……歩き通してきたからそろそろ限界だ。 「はぁ……よっと」  背負っていた(おい)を地に置いて一息。里を見下ろし、スエに話しかけた。 「やっとここまで来たな。そこに里が見える。川を渡る前に、今日は一晩そこで過ごそう……ん、スエ?」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加