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隣に目を向けたが、山吹色の小袖姿が見当たらん。それより少しばかり後ろに見つけることができた。しかしなぜか俺らの来た山中の道を、ジッと見つめ返している。まるで、猫が獲物の気配でも察するかのように。
「ん……なんだ、猪か? そんな気配は無かったが」
「戯け、そんなもんでないわ。
そこにいるんじゃろ出てこい! いかでかお前は後をつけてくる」
風はないが、そこの茂みは微かに揺れた。
「ん……こりゃ、怪異の気配か。気づかなかったな」
木陰から影を伸ばし、そろりと出てきたのは若い女だった。こがね色の衣を纏い、白くふわりとした薄絹が肩を覆う。さては……。
妖力が強いだろうに、よく気配を誤魔化せているもんだ。さすが野干と言ったところ。スエに諭されなけりゃ、ずっと気づかなかったかもしれん。
俗に言う化け狐、野干。
その生の大半を山の然るべき場所で過ごし、見える者を騙し遊んでは生力というものを僅かばかり奪って生きていく。
瞳と体毛は稲穂の色をしており、尾だけ月のように白いのが特徴だ。人に化けたとき、着物は体と同じ色に。被り物は尾と同じ色になる、と言われている。
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