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「おいキクリ! 野干は人を惑わす。手練手管に弄ばれたくなければ余計な話はせんほうがええぞ」
「いや……だが、こうもされてはな。きっと訳があるんだろ。聞いてやっても損は無い。何せ、こういう生業だからな」
「ぬぅ……また無用な足止めを食うやもしれんというに、お前という奴は」
釈然としない様子を横目に、俺はギンの前へ。
「どれ、聞こうか。その話とやらを」
すると幾分、面持ちを緩めて頷いてくる。
「お願いというのは、あの里にいる者への言伝です。あと、これを渡して欲しい――」
懐からそっと出されたのは花びらのような雪、六花の紋様が裏に描かれた丸い手鏡だった。よく手入れされているようで、傷や曇り一つない。森の水鏡のようだ。
「ほう……こりゃ珍しい。だが、ここらのもんじゃないな。いったいどこで?」
「あそこの里にいる、サロクという者から昔に貰った物です。そして、渡して欲しい人もまたしかり……」
愛おしそうな所作が思わせる。サロクに対する気持ちの強さを。
怪異の見える者が、あの里にいるということか。しかし……。
「見る限りその手鏡、よく気に入っている様子だが。どうして返すような真似を」
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