10人が本棚に入れています
本棚に追加
「……サロクとは、随分と親しいものだったんだな」
「昔、この山でいろいろ話をしたんです。
そう……思い返せば最後に話した日からもう七回ほど、この季節を巡りました。最後に会ったとき、サロクはちょうど十と三つほど。この手鏡を貰ったのも、そのときです」
七年前が最後か。歳は十三……ちょうど、ウブスナが一気に抜けるあたりだな。
「そうか。そんで、伝えたいことってのはいったい何なんだい」
「明日、日が暮れたこの山で地滑りが起きる。提灯行列は日を改めるように……そう、伝えて欲しいのです」
提灯行列……他の里へ嫁入りする折、日暮れどきに提灯を持って嫁ぎに行く慣習だ。一部の地域では未だ続けられていると聞く。
にしても、地滑りか。野干は山の意識を共有することがある。きっと、山が見た夢を同じように見たのだろう。それはつまり、予知夢。
しかし妙だ。どう考えても地滑りなど、この日照り続きじゃ起きそうにないがね。
「ふむ……地滑りな」
すると隣のスエが捨て笑う。
「ほーう、それは本当かの。晴天続きなうえ、ここらのウブスナは落ち着いとる。ワシが思うに、そのようなことは起きそうにない。常套の悪巧みではなかろうな」
これにギンは、やにわに口を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!