野干(やかん)【前篇】

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「……サロクとは、随分と親しいものだったんだな」 「昔、この山でいろいろ話をしたんです。  そう……思い返せば最後に話した日からもう七回ほど、この季節を巡りました。最後に会ったとき、サロクはちょうど(とう)と三つほど。この手鏡を貰ったのも、そのときです」  七年前が最後か。歳は十三……ちょうど、ウブスナが一気に抜けるあたりだな。 「そうか。そんで、伝えたいことってのはいったい何なんだい」 「明日、日が暮れたこの山で地滑りが起きる。提灯行列は日を改めるように……そう、伝えて欲しいのです」  提灯行列……他の里へ嫁入りする折、日暮れどきに提灯を持って嫁ぎに行く慣習だ。一部の地域では未だ続けられていると聞く。  にしても、地滑りか。野干は山の意識を共有することがある。きっと、山が見た夢を同じように見たのだろう。それはつまり、予知夢。  しかし妙だ。どう考えても地滑りなど、この日照り続きじゃ起きそうにないがね。 「ふむ……地滑りな」  すると隣のスエが捨て笑う。 「ほーう、それは本当かの。晴天続きなうえ、ここらのウブスナは落ち着いとる。ワシが思うに、そのようなことは起きそうにない。常套(じょうとう)の悪巧みではなかろうな」  これにギンは、やにわに口を開いた。
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