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裏舞台4
「良く思ってないのはほぼ全種族だと思うわよ」
「でも、その王様は裏舞台のまとめ役だってさっき言ってましたよね?」
「言い方を変えたほうがいいようね。まとめ役というよりは抑制していたと言った方が正しいかしら。王といってもみんなに支持されてなったわけじゃない。誰も彼に勝てないって分かってから従ってたのよ」
「それって独裁じゃ?」
「弱肉強食。強者に従うか死ぬかそういう世界なのよ」
彼女は一息つくためかカップを手に取った。その様子を人間の世界とは違い野性的な彼女らの世界に少し気圧された優也はただ見つめていた。
「じゃあ、今狙われてるのって。残党狩りってことですよね?」
ココアを流し込んだマーリンはカップをテーブルに戻してから優也の確認のような疑問に答え始めた。
「あるやつにとってはそうだけど、他の種族がこの子を狙う理由は別よ」
「他の理由ですか?」
すると瞬きをしたほんの一瞬の間に、座っていたはずのマーリンは消えソファを挟んでノアの後ろに立っていた。あまりにも一瞬のことで最初はどこに行ったか分からなかったが視界の端にその姿を捉えると彼女へと遅れて視線を合わせた。
「それは……」
マーリンはそう言いながら前屈みになり、座ったまま眠るノアの首に両手を回して軽く抱きしめた。そして、右手の指先で首筋から耳までをなぞり始まる。ノアは眠りながらくすぐったそうにしていた。
「この子を食べるためよ」
そう言うと左耳を甘噛みした。
その言葉は最初聞き間違いかと思うほど物騒で人に使う言葉とは思えない単語だった。
「た、食べる、ですか……?」
優也は動揺のあまり訥々とオウム返しのように訊き返してしまう。
そして噛まれたことで目を覚ましたノアに特に痛がる様子は無く、ただ眠そうに大きな欠伸をしただけだった。
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