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【1滴】小さな運命の歯車1
二〇六八年一月十七日火曜日 東京。
仕事を終え深夜の並木道を歩く六条優也。彼の冷え切った片手に提げられたコンビニ袋は歩くリズムに合わせ揺れていた。
そして口元まで覆ったマフラーの隙間から呼吸に合わせて漏れる白い息がその日の寒さを物語る。そんな寒さからマフラーに加えスーツの上に着たコートで身を守っていた。
「また残業引き受けちゃったよ」
溜息交じりで零れた愚痴からは彼の人の好さが垣間見えた。それに加え今まで一度も染めたことのない黒髪の清潔感ある髪型と整った顔に漂う少し自信なさげな雰囲気から彼の大人しめの性格が窺える。
そんな優也は鼻歌を歌いながら自宅に向かっていた。しばらく歩き続けマンションに着くと階段など見向きもせずエレベーターに直行。目的の階のボタンを押すと疲れを吐き出すようにゆっくり息を吐いた。
「ふー。今日も疲れたなぁ」
そう呟くと早く着けと言わんばかりに位置表示器へ視線を向ける。しばらくして到着の合図と共にドアが開くと、すぐにでも家に帰りたかった彼は開ききる前にエレベーターを降りた。
そして少し早めの足取りでいくつかの部屋を通り過ぎると一番端のドア前で足が止める。ここまでの間に取り出していたカギのおかげでドアはスムーズに開けられた。
「ただいまぁ」
小さな疲れ声はあっという間に室内の暗さへと吸い込まれ消えていった。
だがそんな日常には気にも留めず、玄関を上がって真っすぐリビングに向かい電気をつけると、ソファにジャケットと鞄を放り投げネクタイを緩めながら真っ先にカーテンを閉めに向かう。
しかしそれは片側を閉め終えもう片側に手を伸ばした時だった。彼は視界の端で僅かな違和感を捉えた。気のせいだろうと無視することも出来たが、その違和感を確かめる為に彼は視線を向けた。
だが彼の目に映ったのは予想すらしない光景。
そこにはベランダで座り込む人影があった。帰宅しカーテンを閉めようとしたらベランダには座り込む人影がある。そのあまりにも奇怪な出来事が身に降りかかっているにも関わらず優也は不思議と冷静だった(というよりあまり理解出来ていなかっただけだ)。落ち着き冷静にその人影を観察していた。
室内からのおこぼれのような光に照らされたその人影は黒のレザージャケットと黒のジップパーカー、その下に黒いインナー、下にはスラっとした脚のラインが分かる黒いスキニーパンツを穿いている。そして足にはショートブーツを履いているのがなんとか見えた。
だが俯いた顔は光のおこぼれをもらえておらずよく見えない。しかし見た目から恐らく女性。その理由のひとつとして左脇腹に添えられているバングルを付けた手が細く綺麗で女性的だったからだ。
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