相手と自分それだけ2

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相手と自分それだけ2

 そんな優也に気が付きもしないノアは真っすぐオークを見ていた。  そして二人の目が合った瞬間、担いでいた腕を投げつけた。腕は握られた手斧と共に不規則に回転しながら空を切りオークの顔の真横に突き刺さる。  だがオークは微動だにせずノアを見続けていた。 「わざわざお守りまでしてるってごどはよほどゾイヅが大事らしいな。ぜっかくでぎた兵隊は失いだくないか?」 「コイツが兵隊? 兵隊作んならもっとつえーヤツを勧誘するぜ。せめて自分の身は自分で守れるヤツをな」 「ならゾイヅはなんだ? いや、今どなっではなんでもいい。ごごで俺がおめぇをだおしておしめーだ」  オークは真横の手斧から腕を剥がすと手斧だけを取り、立ち上がりながら言った。  そして時が止まったかのような睨み合いが数秒間、先にオークが先に走り出す。大きな歩幅で一気に近づくと手斧をノアの頭上目掛けて振り下ろした。  それをノアは斜めに跳躍し躱す。標的を真っ二つにできなかった手斧が地面に作った亀裂は少し後ろで腰を抜かす優也の股下まで伸びた。  一方、手斧を躱したノアは近くの壁を経由しオークの顔前まで跳んだ。そして左足で脳まで届きそうな衝撃を頬に与え、続けて右足で顎を蹴り上げる。蹴り上げた後は勢いそのまま後ろに宙返りをして着地。  オークは顔に二発の蹴りを喰らい少し怯みつつもすぐさま手斧で反撃を開始した。手斧は上半身と下半身を切り分けようと空気をも切り裂く勢いでノアへ襲い掛かるが、その場でしゃがみ躱されてしまう。その刃が餌食にできたのは逃げ遅れた毛先数本だけ。  だが毛先に悲しむことはなく――というよりは気が付きもしてないノアは手斧を躱した後、姿勢そのまま足払いをしオークを転ばせた。体格差も重量差も歴然としているはずのノアにいとも簡単に転ばされたオークは、まるで初めて魔法を目にした人間のような表情を浮かべていた。
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