小さな運命の歯車4

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小さな運命の歯車4

 優也は足が突き出された瞬間、目を力強く閉じ顔を逸らす。同時に片腕で身を守るが、左手は彼女を守るように依然と伸びていた。  そしてその状態のまま彼は長い人生の中であまり体験することのない「死」を確信する瞬間の中にいた。死の間際になると走馬灯として思い出を見ると言われているが、この時の優也も例外ではない。果たして彼はどのように二十五年という短い人生を振り返ったのか。  しかし人生を振り返り終えても尚、顔には――それどころか体のどこにも痛みや衝撃の類はない。疑問を感じながらも恐々と目に入れた力を緩め、ゆっくり開いていくと、足は左から伸びてきていた手に受け止められていた。  その状況に優也と人型の犬の視線は伸びた腕を辿りその右手の持ち主――倒れていた女性へ。だが女性はまだ俯いたままで手だけが自立して動いているようだった。 「やっぱり生き――」  言葉を言い切る前に足を掴んでいた手は独りでに動き人型の犬を軽々と投げ飛ばした。宙を飛んだ人型の犬はまだ目新しい食器棚に体をぶつけられ綺麗に並べられた食器は容赦なく粉々に。  すると自分の家の家具が無残にも壊れていく様を唖然としながら見ていた優也の横で女性が動き始めた。  立ち上がった女性は真っ先に目を脇腹へ。だがもうそこに傷は無く、破けた服からはまだ血が残る綺麗な肌が顔を覗かせているだけ。  一方、女性が立ち上がったのに気が付いた優也だったが、既に色々な事が起こり過ぎてもうすっかりと頭は混乱状態。  そんな状況についていけない彼を突如、脇に抱え上げた女性は何も言わずベランダに出ると隣の建物の屋上まで一っ飛び。そのまま止まることなく次から次へと建物を移動していったかと思うと広めの屋上で立ち止まった。  すると優也を捨てるように降ろした女性は、片手を顔に当てると急にふらつき体勢を崩して片膝を付いてしまった。恐る恐ると心配の入り混じった状態で優也は、俯き歯を食いしばった女性の横顔を覗き込み肩に軽く手を乗せた。その時、唇からは普通より少しだけ長めで立派な犬歯が顔を覗かせているのが見えた。 「大丈夫……ですか?」  優也の声に横顔が彼の方を向くと凛とし気の強そうな双眸と目が合う。  だがその時、どこから飛んできたのか突然二人の体にプラズマエネルギーのようなもので出来た紐状のものが巻きつき体を拘束してしまった。  そしてあっという間に身動きが取れなくなった彼らの後ろから聞こえてきた声。 「どうだ? 俺ら犬族(けんぞく)紐縛(じゅうばく)わ? わん」  そこには野球ボール程度の丸い機械を持った先ほどの人型の犬の姿があった。
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