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血の眷属2
優也はすぐさま女性に視線を戻した。
「ちょ、ちょっと何言ってるの? ムリ無理むり! 今まで喧嘩どろころか人に殴られたことも殴ったこともないから!」
「あぁー、うるせー」
だが面食らった優也の言葉を女性は全く聞こうとしなかった。聞く気を微塵も感じられないどころかそもそも意見など求めていないといった様子。
「こんな小僧に、しかも人間に俺が負けると思ってるのか? わん。勝負にすらならないわん」
「そ、そうですよね~。僕もそう思いますぅ」
宥めるように発せられた声はこの状況を考えなければ情けなく頼りない。だがこの状況を考えればそれも仕方ない。
すっかり腰が引けた優也は自分よりも圧倒的な強者に対して精一杯の苦笑いを浮かべるしかなかった。
「どうせお前もあの百匹と変わらないだろ? じゃ、余裕だ」
その言葉に一瞬にして怫然とする犬族。その表情だけでも彼の中でぐつぐつと怒りの火山が煮え始めるのが手に取るように分かった。
「俺ら犬族がそんな人間如きに劣ると? わん」
「ちゃんと理解できてるじゃねーか。頭でも撫でてやろーか?」
更に煽るような笑みを浮かべ悠然としている女性を犬族は鋭い目つきで睨みつける。
その隣で女性の考えが全く分からない優也は出来れば穏便に事が済むことを強く願っていた。だがそんな願いとは真逆へ事は着実に歩を進める。
「今一度お前に教えてやるわん。時代は変わり今はこの犬族が最強だということを! わん」
「やってみろよ犬っころ」
いかにも自分が戦うような雰囲気を醸し出していた女性だったが言葉の後、優也の方を向いた。
「よし! 行ってこい!」
その相手を散々煽るだけ煽った後のキラーパスは丸投げもいいところだった。だが根拠を感じられない自信がその女性の表情には現れている。お前ならやれる、そう言われているようでその表情を見ていると優也もどこかいける気が……。
「って。そんな風に行ってこいって言われも……やっぱりむ――」
だが無理なことは無理で、そのことを伝えようとした口を突然、女性の唇が塞いだ。泣き言なんて聞きたくない、とでも言うように。
だが優也にそんなことを考えている余裕はなく突然のことに目を大きく見開き、驚という感情の渦にただただ呑まれるだけ。すると意識の外から飛び込んできた口に広がる鉄の味に少しだけ我を取り戻した。
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