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血の眷属4
動けずにいた犬族の目に映った優也が顔を上げきるとその姿は一瞬にして消えた。かと思うとすぐに目の前へ出現。あまりの速さに唖然とする暇もなく、右側から重い衝撃が襲い掛かり、気が付いた時には犬族の体は飛ばされてた。
だが空中で体勢を立て直し、地面に爪を立てることで何とか勢いを殺す。そのおかげで柵にぶつかる直前で止まった。ダメージを最小限に抑える事に成功した犬族は透かさず優也の方へ視線を戻す。彼は自分を飛ばしたであろう足を下ろしていた。
その姿を四つん這い状態で睨んでいた犬族は剥き出しにした歯を食いしばり唸っていた。
それから数秒の沈黙がその場に訪れる。だがこの沈黙は長居はせずすぐどこかへと立ち去って行った。
犬族はこの三十秒も満たな間に自分が目の前の男に、優也に敵わないことを本能で悟る。しかし散っていった仲間を思い出し、そっと逃げるという選択肢を頭から消した。
そして腹を括ると雄たけびを上げて自分を鼓舞し、四つん這いのまま闘牛の如く走り出した。
「うおおおぉぉぉ!」
その距離をどんどん縮め佇む優也を間合いに捉えると、喉元へ狙いを定め襲い掛かった。大きく開いた口が月明りに照らされ、線を引く唾液と牙が不気味に光る。
そして牙が肉に刺さる生々しい音が響くのと同時に口の中に血の味が広がり、零れ落ちた分の血が地面に滴った。
だが実際に牙が刺さったのは喉元ではなく割り込んで来た左腕。
喉ではなかったものの顎に力を入れ左腕を噛み千切らんとする犬族。牙は肉を掻き分け徐々に奥深く刺さっていきそれに呼応するように溢れた血は優也のYシャツにシミを広げていった。
しかしあともう少しというところで突然、胸にひんやりとした冷たさを感じ同時に目を瞠った。そして次第に体の力が抜けていくと段々、顎に力が入らなくなっていく。
犬族は僅かに残った力を振り絞って眼球だけを動かし、冷たさを感じた胸の方を見遣る。そこには自分の体と繋がるように刺さった腕があり、それを辿った先にはこちらを真っすぐと見つめる赤い双眸。目が赤いということに違和感を感じたが、それを記憶の中の優也と見比べ確認する時間はもう残されていなかった。
無情に光る赤目、それが犬族が心に満ちていく死の恐怖と共にこの世で最後に見た光景。
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