35人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
プロローグ
放課後の生徒会室は混沌の世界と化していた。
しきりに行き交う足音と、あふれる喧騒はとどまることを知らない。五月雨式に降りかかる雑務に対応するためだ。
生徒たちの放つ熱気が満ちる部屋のなか、一年生で新人の俺は、ただただ勢いに圧倒されるばかりだ。
生徒会長の宇和野空先輩が皆にてきぱきと指示を出す。
「南鷹、例の課外活動報告書、今日中に仕上がりそうか」
「ふう、ついに佳境にさしかかったわ。たとえこの指が折れようとも仕上げるから」
「添削は俺がやるから目途がついたら声かけてくれ」
「わかったわ、午後五時までには必ずバトンをつなぐよ」
実務担当の三年生、南鷹静香先輩は画面を凝視したまま電光石火でキーボードを打ち鳴らす。
「宇和野先輩、注文したこの照明セット、どこに保管するんでしたっけ」
「ああ、それは体育館の物置な。鍵は職員室で借りてきてくれ。遅くなると断られるから急いでほしい。ひとりで四往復してもらえるか」
「了解しました、敵は手強いほど燃えるってもんです!」
二年生の円城嘉門先輩は重たそうな段ボール箱を台車に乗せ、勢いよく生徒会室を飛び出した。
それから宇和野先輩は俺に目を向ける。
「ところで黒澤」
「はっ、はいっ!」
「ぽかんと口開けてるが広報誌の編集はどうだ。そっちの期限が差し迫っているんだろ?」
「すいません宇和野先輩、つい土偶に魂を乗っ取られてました」
「おいおい、口開けてんのは埴輪のほうだろ?」
「まじですか!」
さすがはハイスペックの生徒会長。今日も俺に新たな発見をもたらしてくれた。
けれどおちおち感心している場合じゃない。
「じつは原稿がやばいらしいんです! 俺はともかくとして、肝心のみずほ先輩のほうが――」
「瑞穂が?」
最初のコメントを投稿しよう!