プロローグ

1/2
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ

プロローグ

放課後の生徒会室は混沌(カオス)の世界と化していた。 しきりに行き交う足音と、あふれる喧騒はとどまることを知らない。五月雨式に降りかかる雑務に対応するためだ。 生徒たちの放つ熱気が満ちる部屋のなか、一年生で新人の俺は、ただただ勢いに圧倒されるばかりだ。 生徒会長の宇和野空(うわのそら)先輩が皆にてきぱきと指示を出す。 「南鷹(なんだか)、例の課外活動報告書、今日中に仕上がりそうか」 「ふう、ついに佳境にさしかかったわ。たとえこの指が折れようとも仕上げるから」 「添削は俺がやるから目途がついたら声かけてくれ」 「わかったわ、午後五時までには必ずバトンをつなぐよ」 実務担当の三年生、南鷹静香(なんだかしずか)先輩は画面を凝視したまま電光石火でキーボードを打ち鳴らす。 「宇和野先輩、注文したこの照明セット、どこに保管するんでしたっけ」 「ああ、それは体育館の物置な。鍵は職員室で借りてきてくれ。遅くなると断られるから急いでほしい。ひとりで四往復してもらえるか」 「了解しました、敵は手強いほど燃えるってもんです!」 二年生の円城嘉門(えんじょうかもん)先輩は重たそうな段ボール箱を台車に乗せ、勢いよく生徒会室を飛び出した。 それから宇和野先輩は俺に目を向ける。 「ところで黒澤」 「はっ、はいっ!」 「ぽかんと口開けてるが広報誌の編集はどうだ。そっちの期限が差し迫っているんだろ?」 「すいません宇和野先輩、つい土偶に魂を乗っ取られてました」 「おいおい、口開けてんのは埴輪のほうだろ?」 「まじですか!」  さすがはハイスペックの生徒会長。今日も俺に新たな発見をもたらしてくれた。  けれどおちおち感心している場合じゃない。 「じつは原稿がやばいらしいんです! 俺はともかくとして、肝心のみずほ先輩のほうが――」 「瑞穂(みずほ)が?」
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!