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※
警察での事情聴取を終え、ようやく私と藤井さんは解放された。
「今日は、いえ、今日も、本当にありがとうございました」
私は警察署の前で、藤井さんに何度も頭を下げた。それに対し、藤井さんは一言だけ、こう言った。
「本当に、あなたが無事で良かった」
藤井さんは疲れた表情を浮かべながらも、安堵を吐き出すように穏やかな声で言った。天敵から我が子を守った親猫が、仔猫を愛おしく見つめるような、そんな慈愛も孕んだ眼差しをしていた。
その瞬間からだった。私のお腹の辺りから、熱く込み上げてくる何かが芽生え始めた。
安堵だけではない。もっと切なくて泣きたくなるような、でも満たされるような、不思議な感情が混ざって溶けた。
そういえば、数少ない友人の遥ちゃんも言っていた。いざという時、守ってくれる男の人と付き合ったほうがいい。そんなことを考えて、私は顔から火が吹き出しそうなほど熱くなった。付き合うだなんて、そんな。
私は、勇気を振り絞った。
「あの、また今度、お礼がしたいので」なかなか、次の言葉が続かない。けれど、言わねばならない。私は真っ赤になった顔が、どうか夜の闇に隠れていますように、と祈りながら、言った。
「…また、会えませんか?」
今日も僕らの街には、愛が降ってくる。
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