episode.2 責任感

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episode.2 責任感

「俺たちにできることって、ちっぽけですよね」  バイト中、暇を持て余した僕は、隣の先輩に話しかける。市内警備員の仕事だった。無駄に防犯意識の高いこの街で、少し前から初めての試みとして『市内警備施策』が実施された。犯罪の発生率を抑制しようと、街のいたるところに警備員を配置する、という趣旨なのだが、平和なこの街では活躍を見せる場がほとんどない。 「何だよ、突然」隣にいる先輩、遠藤さんは怪訝そうに眉を顰めた。 「いえ、市内警備員と言っても、僕たちにできることなんてたかが知れてるでしょ」 「何だよ、僕たち、って。俺とお前を一緒にすんじゃねえ」 「じゃあ、僕たちに何ができますか」 「だから一緒にすんじゃねえって」  会話にならず、小さくため息をつく。遠藤さんは少し、いや、かなり変わっている。大学はいいところへ通っているみたいだが、はっきり言って変人だった。 「せいぜい、逃げてるやつを追いかけるくらいじゃないですか、僕にできることといえば」わざと、『僕に』という部分にアクセントを置いて言った。 「なんでそいつは逃げてるんだよ」 「ええと、何か悪いことをして、とか?」  その時、あ、と遠藤さんが口を開けて、僕が向いている方向とは逆側を指さした。次の瞬間、何かが僕たちの目の前をものすごい速さで通り過ぎた。  フルフェイスのヘルメットを被った人間が、すごい速さで走り去ったのだ。手には、何やらバックのようなものを持っている。 「おい、あれ」遠藤さんは相変わらず真顔だった。「逃げて行ったぞ」 「ええ、そうですね」 「多分、悪いやつだ」遠藤さんは、フルフェイスがやって来た方向へ再度指を指す。そこには、足は遅いが振り絞る声で、『待てー!』と叫んでいる、老婆の姿だった。 「おい、チャンスだぞ」遠藤さんはにやりと笑って、僕を見た。「お前にできることが、飛び込んで来たぞ」  結局、僕はフルフェイスの後を追いかけた。少し出遅れてしまったが、見通しのいい直線の道路だったおかげで、なんとか見失わず追跡できている。  前方のフルフェイスはちらちらと背後を振り返り僕を見る。少しずつだが、距離が縮まっていた。自分で言うのもなんだが、僕は若くて体力がある。対して、フルフェイスの走る速さが徐々に失速しているのがわかる。  やがて、フルフェイスは道路に面した、ビルとビルの隙間の路地に姿を消した。勢いそのまま、僕も路地に入った。
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