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ドアを閉める。
真向いには、アリシアの部屋。おそらくまだ夢の中であろう彼女に「元気で。」と、囁き、あなたは足音を立てないように静かに階段を下りる。
一階の廊下に飾ってある、幾つかの絵画をあらためて眺めた。
大空を羽ばたく鳥たち。朝もやに包まれた小麦畑。川と釣り人。そしてひと際目を引くのが、アリシアの肖像画だ。ブロンドの髪。悲しげな瞳。婉容なその様は、観るものを魅了し、そしてまた、心を落ち着かせる。
あなたは廊下を少し進み、ショールとマーサの部屋の前で立ち止まった。
親のいないあなたを今日まで育ててくれたふたりに心の中で感謝を伝え、その場を後にする。
住み慣れた家の玄関の扉を開けた。
そよぐ風があなたを迎える。
そっと首元に手をやると、幼少の頃からいつも身に着けていた琥珀のペンダントを握りしめる。そして
父のことを想った。
あなたの旅は始まった。
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