【別れの朝】

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 「わかっとったよ、お前さんの気持ちは。ずっと引け目を感じておったんじゃろうて。」  からからと釣瓶の滑車の音が続く。  「このフェンマージェンの村に生まれた者は誰しも“特別なチカラ”を授かって命を受ける。じゃが、お前さんには、そのチカラがなかった。」  あなたは頷く。  「お前さんの養父のショールには、観る者の心を揺さぶる画を描くチカラが。母親には眠りにつく子供に安らぎの夢をみさせる子守歌のチカラがあった。わしにも動物の感情を理解し、心を伝えるチカラがある。村の人間はみんな何かのチカラがあるのに、なぜ自分だけ…。今までそう悩んできたお前さんのつらさは、ずっと感じておったよ。」  ロイは釣瓶を降ろす手を止め、あなたを見つめると、こう言った。  「噂は、確かにわしも聞いたことがある。ここから遥か北にある深淵の森。そこに住む賢者と出逢う者は特別なチカラを受けるという噂をな。止めはせん。お前さんが決めたことだからの。気を付けて行くんじゃ。無事を祈っとるよ。」  ロイの言葉を後に、あなたは歩みを続けた。
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