31人が本棚に入れています
本棚に追加
幼馴染
「なあ、萌奈」
「うん?」
「遥ちゃんって、付き合ってる人いるの?」
あと十日もしたら夏休みとなる、いつもの帰り道のことだ。
突然の質問の意味がわからずに、一緒に帰っていた幼馴染の玲央を見上げた。
「あ、俺じゃねえぞ。クラスのやつから、お前に聞いてくれって言われてて。遥ちゃんとお前が仲の良いの知ってたみたいで」
ああ、そういう意味か。
「ふうん? いないんじゃないかな? 今まで聞いたことないし」
遥は高校入学時から仲良くなった私の親友だ。
学校では常に一緒にいるようになり、三ヶ月経つけれど、そんな話は聞いたことがない。
「あんな可愛いのに?」
「うん、可愛いよね。性格もいいんだよ、なのにいないみたい」
「どうして?」
「さあ? 知らないよ」
「遥ちゃんの好きな芸能人のタイプとか、聞いたことある?」
「伊藤尊くんとか、好きって言ってた気がする。優しそうな男の子が好きなのかも」
「へえ」
そうなんだ、と言ったきり、玲央は空に浮かぶ夕焼けに染まる桃色の雲を見上げ、口角をあげている。
笑ってる? なに笑い? 思い出し笑い?
気持ち悪いなあ。
しばらく、ニヤニヤしていたかと思うと、まるで話の続きのように。
「そういえば、遥ちゃん以外の女友達も最近できただろ?」
「へ? 私の話?」
「そ、萌奈に友達増えたって話」
「うん、増えたね、増えたよね」
嬉しくなって同意を求めたら、目を細めた玲央に頭をポンポンと撫でられた。
「すげえ、進歩じゃん」
「そうでしょ? 私も、そう思う」
歯をこぼして笑い合うのは、ほんの四か月前までの私を、玲央が知っているからだ。
破られたノート、マジックでイタズラ書きされた教科書、泥だらけの体操服、無くなった上履きたち。
最初のコメントを投稿しよう!