幼馴染

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「少し遠いけど、いい学校だよな」 「うん、来て良かった。本当に」  高校の中で私の中学時代を知っているのは、玲央だけだ。  電車で一時間以上かかる高校を志望したのは、あの真っ黒い世界から逃げ出すためだった。  小学校高学年から中学の三年間、私の青春なんか、青くもないし、プリズムに弾けるようなキラキラしたものではない。  薄汚くドロドロとした感情がうごめく中で、苦しいだけの毎日。  小学校高学年から始まった私へのイジメ、きっかけは体調不良で給食の途中で吐いてしまったこと、だった。  それからの日々は地獄。  私の日常にあったはずのカラフルな色たちは、こぼした墨汁が広がっていくように、少しずつ黒く塗り替えられていった。  息を吸うのも吐くのも辛いし、ビクビクと怯えながら生きてきた。  どうせなら透明人間にでもなってしまえばいいのに。  だけど、思春期の女の子たちの残忍さは、そう易々と私を透明人間にはしてくれない。  バイキン、汚い、気持ち悪い。  都合の良い時だけは、存在を消されていたけれどね?  そんな中で、玲央だけは違った。  ううん、違わない、変わらないでいてくれた。  生まれた時から家は隣同士だし、誕生日も三日違い。  気付けば側にいて当たり前のような、存在が玲央だった。  互いに一人っ子だったから尚更のこと。  兄妹のように育ってきた私の変化を感じ、玲央は違うクラスなのに度々様子を見に来たり、今まで通り家に遊びに来てくれたりもした。  ある日、筆箱に入っていた可愛いシャーペンたちをバキバキにへし折られて、自身の心も一緒に折れてしまった。  家に逃げ帰り、膝を抱えて泣きじゃくっていた私は。 『どこか遠くに行きたい』  追ってきたレオに、どうにもできない気持ちを訴えた。  行けっこない、逃げれっこない、だけど私を知らないどこか遠くに行ってしまいたい。 『だったら、俺も萌奈と一緒に行くか。ここから通える中で一番遠い高校に』  玲央の一言は、今まで無理だって思っていたことを否定してくれた気がした。  その優しさと、一緒にという力強い言葉に、素直にコクンと頷いた翌日から、放課後は二人で猛勉強をした。  当時の私たちには少し背伸びをしなきゃならないほどの偏差値の高校に入るために、必死だったのだ。
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