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親友
そうして、ようやっと玲央と共に入学した高校で、初めてできた友達が遥だった。
遥は、女の私から見てもとても可愛らしい。
なのにその可愛さに、自分で気付いていないようだ。
大口を開けて笑ったり、お笑いが好きだったりしてすぐ物真似をする、そのギャップがまた可愛いと思った。
ある日とっても困った顔をして私に話を聞いてほしいと言った遥。
自分の話を聞いても、離れて行かないでほしいと前置きされて――。
『私ね、中学の時ちょっとイジめられてたの。そのことを知ってる人から、萌奈に伝わる前に、自分で言っておきたかったの』
遥が、へへっと眉尻を下げて自虐的に笑った時、泣いているように見えた。
離れるだなんて、ありえない。
『え? なんで? 萌奈?』
泣き出した私の頬に遥はハンカチをあてる。
『私も、同じだよ。ずっとイジメられてた』
泣きながら笑ったら、遥も同じ顔をしている。
『こんなとこまで仲良しだね』
お互いを慰めるように強く抱きしめあった。
玲央とはクラスが離れてしまったけれど、心配して毎日のように私の元をたずねてきてくれた。
その内、私が常に遥と一緒にいるのがわかって、玲央も喜んでくれて。
私を通して二人も仲良くなっていた。
『初めは、本当に萌奈のお兄ちゃんかと思ってた。妹想いの優しいお兄さんなんだなあって』
『ええ? 私、もっとかっこいいお兄ちゃんが欲しかった!』
『それ、こっちの台詞! 俺の妹なら、多分美人だったわ』
時には三人で一緒に帰ったりして、そんな優しい二人の間にいるのは居心地が良かった。
ずっと励ましてくれた『幼馴染』、初めてできた『親友』と呼べる存在が、学校にいること。
登校するのも、休み時間も、離れている間のささいなメッセージのやりとりも、毎日が楽しい。
墨汁で染められていたはずの真っ黒な世界に、虹色の雨が降り注ぐみたいに、色が戻り始めた。
かつての元気な私を取り戻す様子に、玲央が喜んでくれることが嬉しかった。
遥と一緒に、笑ってさえいられたら無敵になれる気がした。
二人は全く違う存在ではあれど、私にとっては大切な大切な存在だった。
かけがえのない大事な存在だった。
はず、だった。
遥が、あんなことさえ言い出さなければ――。
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