21人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日も傘持ってないんだね? 僕はいま突然の雨に感謝してるんだ。また声を掛けるチャンスを作ってくれたから。どうか駅まで君を送らせて欲しい」
当然返ってくる言葉は、気持ち悪いとか、消えろとか、辛辣極まりないだろうと思っていたが、その日は柔和だった。
「韓国の女性は大概持ってないよ」
「どうして?」私は訊いた。
「どうしてって……」
少し俯いたシアの顔は初めて会った数か月前、改札越しで見せた何か言いたそうにした表情と同じだった。「日本語上手いね」何故そう訊ねたのかは覚えていない。たぶん口説き文句もいい加減ネタ切れだったのだと思う。
「勉強したから。彼を知り己を知れば百戦殆からず」それがシアの返答だった。
「孫子だね」
「うん。君、日本人ぽくない」
「僕のこと?」
「そう、日本の男性は一度断ったらそれきりって聞いた」
「韓国の男の人は違う?」
最初のコメントを投稿しよう!