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「10回叩いて折れない木はないって諺がある。だから10回で駄目なら100回でもデートに誘ってくる。家の前で待ち伏せしたりとかも」
「日本でやったらストーカー行為で訴えられそうだね」
「韓国の男の人の大部分が逮捕されるかも」
そう言ってシアははにかんだ。初めて見るシアの笑顔、誰がこの笑顔に勝てるだろうか。眉下に架かる前髪から覗いた三日月のような切れ長な瞳。気絶しそうなほどに可愛かった。
「でも韓国の話し」
「日本と韓国は違うってことだね」
「うん」
「初めて会った日のこと覚えてる? 改札で僕は君が何か言いたそうだと思ったんだけど、勘違いかな?」
「……」
「ごめん、忘れて。駅まで送るよ」
返事なんてなくたっていい。ただ彼女が一ミクロンも濡れないように、雨粒だけではない、風に舞う粉塵、喧騒すらからも守るように傘をかざして駅までの静かな無言の歩みの中で私は幸せを感じていた。だから少し遠回りをする、なんていう小細工をしていたし、それがバレるのではと冷や冷やもしていたし、だから彼女が思い切るようにして口を開いた時は背筋が凍る思いだった。
けれどそれは直後、歓喜と知る。
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