7人が本棚に入れています
本棚に追加
「──誰だい、あの小娘は? どう見ても騎士には思えないんだけど……」
騎乗での進軍中、うら若き乙女ながらも銀の甲冑を身に纏い、馬に跨って兵達の先頭を行く少女を見かけたジルドレアは、怪訝な顔で傍らの同僚に尋ねた。
「ああ、あれは近隣の村のジューヌっていう農民の娘だ。敬虔なレジティマム信者で、なんでも神の声が聞こえる聖女さまらしい……おまなけに名前まで〝オンドリャンの聖女〟と同じときた」
彼の質問に、美しいブロンドの髪を風に靡かせ、碧い瞳に強い意志を秘めたその少女を同僚の騎士はそう称する。
アルビターニュの農民は、なにも全員がビーブリストというわけではない。同じくらいに熱烈なレジティマム信者も存在しており、相容れないビーブリストを排斥するため、民兵を組織して鎮圧軍に参加する者もいるのだ。
そのジューヌという少女も、そんな信徒の一人だった……。
しかし、ジューヌが他の者達と違ったのは、彼女が〝神の姿を霊視〟し、〝神の声が聞こえる〟ということだった。
ある日、日課の祈りを捧げている最中に
「異端であるビーブリストに鉄槌を与えよ…」
との神のお告げを授かり、彼女は幼いながらも民兵に志願したのだという。
その上、やはり神の声を聞くことができ、かつて、フランクルの領土をアングラントより奪い返した救国の英雄、〝オンドリャンの聖女〟こと聖女ジューヌとも偶然、同名である。
いや、本当に彼女が神を声を聞いたのか? それとも、単に同じ名の聖女を意識したための幻聴であったのか? それはわからない……。
だが、レジティマム派の民兵達は彼女の出現に狂気乱舞した。
本来、レジティマムの教えによれば「神の声を預かれるのは預言皇のみ」とされており、それからするとジューヌの言動は明らかに異端の主張であるはずなのだが、やはり救国の英雄と重なる彼女の出現は、熱烈的な歓迎を以って兵達に受け入れられた。
そして、民兵ばかりか全軍の士気を高めた彼女は一躍、鎮圧軍のアイドルへと祭り上げられ、〝オンドリャンの聖女〟同様の象徴的存在となったのである。
「聖女さまねえ……ま、ただの気のふれた娘っ子ってとこだろうね……」
はじめ、現実主義で悪徳に満ちた人間へと成長していたジルドレアは、ジューヌのことを完全に眉唾モノと思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!