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「──真なる神の戦士達よ! わたしに続けぇーっ!」
しかし、けして恐れを抱くことなく、細腕にブロードソード(※レイピアよりは幅広の戦場用の剣)を握りしめ、激しく銃弾飛び交う中を果敢に突撃してゆく可憐な乙女の姿に、斜に構えて見ていたジルドレアも次第に心惹かれていった。
いやむしろ、人を疑うことしか知らず、けして他人を信じることのなかったジルドレアにとって、純真無垢に神を信じている彼女の姿は、キラキラと眩ゆいまでに光を放つ、なんとも美しいものに映ったのかもしれない……。
「ジューヌ、君は下がるんだ! ここは僕らが引き受けるよ!」
「ありがとうございます、ジルドレア卿! ですが、銃弾の雨などわたくしは恐れませんわ!」
それまでの彼とは異なり、ジルドレアは己が利益のためではなく、粉骨砕身、彼女のためだけに身を粉にして戦った。
ところが、一種、純愛にも似た、あるいは騎士道的な愛とも呼ぶべき彼のこの想いは、突然、無慈悲なまでに打ち砕かれることとなる……しかも、あまりにも壮絶的な終わり方で。
「──このジューヌなる者はーっ! 教会腐敗の象徴たる預言皇同様ーっ! 神の声が聞こえるなどと虚言を弄しーっ! 我らが真実なる神を冒涜したーっ!」
エジュノー軍の立て籠った古城の高い城壁の上、柱に縛り付けられたジューヌの傍らで、敵の指導者が眼下の鎮圧軍相手に高らかに演説を打つ。
乱戦の中、不運にもジューヌは敵の手に落ちたのだ。
「よってーっ! 異端の魔女である罪によりーっ! この大罪人を火刑に処すーっ!」
そして、鎮圧軍に心理的打撃を与えるべく、彼らの象徴的存在であった彼女──聖女ジューヌを、そのまま衆目の見守る中で火炙りにしたのである。
「皆さん! 恐れることはありません! 神は我らとともにあります! たとえ死しても、正義を全うした者は神の御許へ召されるのです! さあ、皆で神に祈りましょう!」
だが、それでもなお、ジューヌは敵を恐れなかった……どこまでも神を信じ、灼熱の炎の中で泣き叫ぶことも、また苦痛にもがき狼狽えることもなく、潔く自らの信念に殉じて天に昇っていった……。
それは、あたかも〝はじまりの預言者〟、開祖イェホシア・ガリールの磔刑を思わすものであり、処刑というよりは教会の祭礼を見るかの如くであった。
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