La Moustache Bleue ~青髭~

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 こうして、世間的にはエジュノー鎮圧の武功を立て、ますます優秀な軍人としての地位を確立するジルドレアであったが、それ以降、なぜか彼は表舞台から姿を消し、所領にあるチャントセー城に引き篭もってしまう。  では、居城に引き篭もって彼が何をしていたかといえば、それはけして許されざるべき、背徳的な欲望に満ちた悪魔の所業であった……。 「──みんな、そんなに怖がることはないよ? 僕と一緒に理想郷を築こうじゃないか!」  深い堀と高い城壁により、外界からは完全に隔絶された石造りの城……薄暗いその城内の一室で、恐怖に引き攣った顔の少年・少女達を見回しながら、興奮気味のジルドレアは嬉々とした声で彼らにそう告げる。  その見目美しい子供達は、ジルドレアの子でないのはもちろんのこと、彼の親類縁者の類というわけでもない……その子らは、雇ったならず者達にジルドレアが命じて、近隣の村々から誘拐して来た美少年・美少女達である。  あろうことか、彼はそうして容姿に優れた子供達を集め、何人(なんびと)の干渉も受けないこの城の中に、己が理想とする自分だけの王国を築こうとしているのだ。 「大丈夫。いい子にしていれば何も怖いことはしないから……」  ギラギラと艶かしく輝く眼で舐めるように見つめながら、表面上は優しい口ぶりでジルドレアはそう言い含める。  当然、力任せに親元から引き離され、無理矢理連れてこられた子供達が自らの意思で従うわけもなく、そこは恐怖による支配をジルドレアは行った。  もちろん、それでも従わず、時に城から逃げ出そうとする子供達もチラホラいるのではあるが……。 「──黙って出て行くなんて悪い子だねえ。そんな悪い子にはお仕置きをしないと……」  明かり取りの窓もない秘密の地下室……あえなく家人に捕まり、天井から吊るされた男の子を妖艶な眼差しで見つめると、乗馬用の鞭をギシギシとしならせながら、ジルドレアは冗談めかした口調で小言をいう。 「ご、ごめんなさい領主さま! も、もう逃げたりはしませんから! もう逃げたり…はぐあっ…! あぐうっ…!」  涙目で必死に謝罪をする男の子を、狂気の笑みを浮かべたジルドレアは容赦なく鞭で叩きつける。  その折檻は反抗的な者への教育であり、他の子供達への見せしめであり、また、サディスティックな性向を持つジルドレアの欲望を満たすものでもあった。
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