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とはいえ、アルビターニュはもちろんのこと、最早、フランクル国内にジルドレアの行き場はどこにもない……だが、戦場しか知らない彼が今さら身分を偽り、農民や商人の真似をして生きるのも無理というものであろう。
そこで、騎士の経験を活かせる仕事としてジルドレアは傭兵のふりをし、偶然、港で見かけたベン・ジャスミン・マリーゴールドというアングラント人海賊の私掠船に乗り込んだ。
この選択は大当たりで、海の上ならさすがに彼の顔を知る者もなく、また、その出自からアングラント語も堪能だったことが正体を隠すのに一役買い、まんまと彼は当局の追跡から逃れることに成功したのである。
そして、ベン船長とともにトリニティーガー島へ渡ると、〝新天地〟の海で海賊行為に励むこととなったのだが、これがまた、天職と呼べるほどにジルドレアには向いていた。
「──よし! 船長の船が取り付いた! 僕らは反対側へ回り込んで乗り込むんだ!」
ベン・ジャスミンの乗るキャラック船〝ベンチャー号〟が獲物のガレオン船と交戦する中、騎士時代同様、愛用のカラビニエールアーマーを着たジルドレアは、ブロードソード片手に小型のスループ船の先頭に立ち、配下の海賊達に大声で檄を飛ばす。
船の襲撃ではもと軍人としての武芸と戦の才を遺憾なく発揮し、また、狡猾な彼の性格は相手を出し抜くのにも大いに役に立ち、ジルドレアはすぐに頭角を現すと、三隻ある一味の海賊船の中の、スループ船一艘を任されるまでになった。
フランクル王国の騎士から一転、そうしてすっかり海賊稼業の身についたジルドレアであったが、さらなる転機が彼に訪れる。
もともとがアングラント王の命を受けた私掠船の船長であり、あくまで敵国エルドラニアの船しか襲わないベンに対して、他国の獲物にも手が出したい船員達が一斉に反発し出したのだ。
「立ってくれジルドレア! ベン船長のやり方にはもうついていけねえ!」
「そうだ! あんたが立つなら俺達はついていくぜ!」
そうした不満を持つ船員達は、実力もあり、手段を選ばない性質のジルドレアへ新たなリーダーとなってくれるよう詰め寄る。
「いやあ、そんな気はさらさらなかったんだけど……まあ、みんながそこまで言うんなら……」
皆の要求を受け、あまり乗り気ではない様子であったがジルドレアはこれを承諾し、全船員参加の選挙の結果、ベン・ジャスミンは追放、彼が新しい船長に選出された。
海賊、こういうところは意外と民衆的なのだ。
……が、しかし、一味の仲間達はジルドレアという人間を大いに見誤っていた。
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