カケル 君という風

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カケル 君という風

 ハーフパイプの上から、会場を見渡す。  この丘の公園全体が祭の会場になっている。遊歩道沿いに屋台がならんで、あちこちから楽しげな人達の声が響いていた。  スケートパークでは祭りのイベントの一つ、毎年恒例の裏全国大会が開催中だ。さっきストリートの決勝が終わったところで、これからハーフパイプの決勝がはじまる。  たくさんの人達が、ハーフパイプをとりかこんで楽しそうに笑っている。その中には父ちゃん母ちゃんとじいちゃん。  それから、じいちゃんと笑顔で話しているのはたぶん、アトリのばあちゃん。  ここに、アトリはいない。  名前の呼ばれたオレは、応援してくれる人たちに手を振って、ハーフパイプの切り立った壁の上に立つ。  あの日、アトリの前で飛んだオレは、初めてヘッドオーバーの高さを出せた。  それでわかったんだ。  勝つとか、点数とか、そんなの関係なかったんだ。それは自分の心の重りだった。  ただ、届けたい気持ちを形にするだけでよかったんだ。  ほら、今はこんなに心が軽い。今なら何でもできそうだ。  アトリはやっぱり弱くなんてないよ。アトリがオレの羽に吹く風になってくれたんだ。  アトリと花火をみれないのはすごく残念だけど……。  ああ、そうだ。 「アトリ、おれ、トビウオ漁師の息子なんだぜ。今度はちゃんと、本物のトビウオが飛ぶところもみせてやるよ」  空にむかってつぶやいた。  滑走開始のカウントダウンがはじまって、合図とともにオレはハーフパイプに飛び込んだ。  ターンを繰り返して、エアーの高さをあげていく。  高さがあがる度、会場から大きな歓声が沸き上がる。  絶好のタイミングで思い切り踏み込む。体がギュンと加速していく。  ハーフパイプの頂上を、あの子の目指した水面を、突き抜けて空へと飛び出す。  そしてアトリとつながっているこの空に、足を突き出した。  気持ちが届くように、願いを込めて。  フライングフィッシュは、高く、高く、高く、高く。  青く、光り輝く。
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