カケル ピッチピチハート

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カケル ピッチピチハート

「アジアンエクストリームってあるだろ」  最後のトビウオのからあげをほおばるオレに、ビールをグラスに注ぎながら父ちゃんが言った。  アジアンエクストリームはでっかい国際大会の一つだ。  インラインスケートだけじゃなくて、スケボーやBMX、クライミングとか、激しいアクションを特徴とする「エクストリームスポーツ」と呼ばれる競技の祭典で、その様子は世界中に配信される。  ヨーロッパアフリカ、アジア太平洋、南北アメリカ大陸と、世界の地域を三つにわけ、夏と冬に競技をわけて開催される。アジアンエクストリームはその内の一つだ。  スノーボードも、スケボーも、エクストリームスポーツのどれもが、かつてはオリンピックの正式種目じゃなかった。  だからこの大会はエクストリームスポーツのもっとも歴史ある大会で、オリンピック競技のライダーの中にも特別な思い入れを持つ人は多い。  オレ達みたいなオリンピックに入っていない競技のライダーなら、それはなおさらだ。 「毎年一月の終わりとかにやるやつ? 次はバンコクだっけ?」 「ああ。そう、バンコク開催。あれな、カケル、お前も出れるかもよ」 「へ?」  アジアンエクストリームには「はい出ます」といって出れるものじゃない。出場できるのは世界で活躍するようなトップ選手だけだ。 「なんかな、今、活躍してる選手ってどんどん若くなってるだろ?」  一昔前の第一線で活躍する選手といえば、二十代とかが普通だった。父ちゃんなんてスケートを始めた時にすでに二十代で、活躍したのは二十代後半にさしかかってからだ。けれど、今は十代後半の世界チャンピオンも当たり前だ。 「だからなのか、ジュニアエキシビジョンショーみたいのを考えているらしいんだ。世界にこれから出てくるかもって子供を集めてさ」 「まじでっ!」  アジアンエクストリームなんて、夢のまた夢の舞台だと思ってた。高校生くらいで出れたらいいなあ、なんて何となく考えていたような大会だ。本戦じゃないエキシビジョンだとしても、世界の一流選手と同じ場所に立てるなんて最高だ。 「各国の協会が推薦者を出すみたいなんだけどさ、日本でもその選手を選考してるらしいんだよ」 「それって、どうやって選んでんの?」 「まあそりゃ大会の結果とかだろ。全国大会とか」  なんだよ、それってぬか喜びってやつ。 「それじゃオレ無理じゃん」  オレは春の予選で落ちて、全国大会には出場すらできない。 「まあまあ。そりゃでかい大会から優先的に選ばれるだろ。けど、だよ。選ぶのはこれから活躍するような小学生くらいの子供だろ? そんなの、全国大会だけじゃたぶん足りないだろ。全国に出れる小学生なんて少ないからな」 「それじゃあ」 「他の大会でも結果出せば、選ばれるかもしれないってこと」 「おお! やったっ!」  思わず、ガッツポーズをつくる。 「いやいや、おまえね、かもしれないってだけなんだからさあ」  父ちゃんはやれやれというような顔で、グラスのビールを飲み干した。 「まあでも、九月あたまのこの町の大会で結果出したら、もしかしたらって話よ」  この町のスケートパークは国内ではかなり古いほうで、スケートパークが一般的になる随分前からあった。昔は珍しい施設を利用する為にわざわざ愛好者が遠くから集まってきて、独自の大会やイベントを開催していたらしい。父ちゃんが活躍した頃の話だ。  その頃から続く、愛好者達と町の人々の心意気が作り出したその大会は、九月最初の週末に、町のお祭りと同時に開催される。全国大会など正式な成績には全く関係ないにも関わらず、大勢のライダーが集まってきて、裏全国大会と呼ばれるほど注目されているんだ。 「裏全国で結果だせば……」  夢の夢の舞台、アジアンエクストリームに出れるかもしれない。 「そうそう。かもしれない、だけどな。でもテンションあがるだろ? がんばれよっ」  そりゃテンション爆あがりだって! 明日からは超特訓だ!  春の大会で失敗した大技、フラットスピンを今度こそ決めてやる。そうすればきっと!   オレは急いで風呂へと走った。
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