カケル 朝日に輝く歌声

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カケル 朝日に輝く歌声

 アトリと名乗ったその子は、次の日には真新しいスケートを抱えて、オレのところへやってきた。 「え! もう買ってきたの?」 「うん、昨日帰ってからすぐにお母さんに電話してお願いしたの。そうしたら買ってもいいって」  あの後でアトリは、スケートはどこに売っているのか聞いてきた。少し表情が明るくなったみたいだったから、オレも嬉しくなってショップの場所とか、道具のことを教えたんだ。  この小さな港の町にはインラインスケートが売っているようなショップはない。  慣れていればインターネットで買うのがいいんだろうけど、最初は実際に触れるほうがいいと思って、ちょっと離れてるけど、新幹線の止まる駅のある大きな町のショップをすすめた。 「ほら、これ。真っ白でかっこいいでしょ」  アトリは嬉しそうに真新しいシューズを胸にかかげた。 「ローラーブレードのアルファーか、いいと思う」 「タイヤが四つのほうがいいかなとおもって。カケルのも四つでしょ? なんか真ん中のタイヤがなくて、二つだけのもあったんだけど」 「ああ、ハーフパイプやるなら四つのほうがいいよ。二つのもいろんな技が試せるから悪くないけど。後で部品交換すれば二つにもできるし」 「そうなんだ。よかった。それからプロテクターセットと、ヘルメット」  アトリは買い物かごのようなものから次々と取り出しては並べていく。 「このヘルメットもかわいいでしょ? スケートと色を合わせたんだ」  パールホワイトのヘルメットに顔をつっこんで、新品のにおいをかいだりしている。 「じゃあ早速やってみるか。まずはつけてみようぜ、その自慢のシューズとヘルメット」 「うん」  はじめて会った時の、きらきらした目でアトリは笑った。そんな顔をみると、こっちまで嬉しくなってくる。  スケートシューズのバックルのはずし方から締め方、プロテクターの付け方も一通り教えた。新品の道具に身を包んだアトリは少し緊張したような顔をしていた。 「それじゃ立つことからやってみよう。両膝をついた状態から、片足をたてて、たてた足の膝に手を乗せて押すみたいにして、ぐっと立ち上がる」  目の前でやってみせると、アトリは真剣な目をしてうなずいた。 「ま、気楽にさ。あ、手は前のほうに出しといて、後ろにこけるとあぶないから。常にちょっと前って感じ?」 「スキーと同じね。すねを押しつけるようなイメージであってる?」  ぐっと立ち上がったアトリは、自然に膝を曲げて少し前に体重を乗せた。 「そうそう。いい姿勢。スキーやってるんだ?」 「お父さんとお母さんが好きだから。あ、ギャグじゃないからね。三歳くらいからやってるから、スキーは結構できるんだよね。体育は全然だめだけど」 「そうなんだ。うまい人の中にも結構そういう人いるよ。スキーできるならスケートも向いてるかも」 「ほんとっ?」  本当にその通りで、アトリはすぐに基本的な平面滑走ができるようになった。 「ほんとに初めて? すごいじゃん」 「自分でもびっくり。けど、なんか最初に立った時に、なんかイケそうな気もしたような」 「あ、降りて来ちゃった?」 「降りてくる?」 「練習してるとさ、やったことのない技のイメージがいきなりわいてきたり、ずっとできなかったのに成功するイメージがふっと生まれる時があるんだけど、なんていうかイメージが突然ふってくるとか、降りてくるみたいなさ」 「うーん。そうなのかな? よくわかんないけど。でも……」 「でも?」 「でも、とにかく楽しいっ!」  その笑顔がまぶしかったのは、差し込んできた朝日が当たったせいかもしれない。賑やかにさえずり始めた小鳥達の声も、喜んでいるみたいに聞こえた。
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