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「フレンチとか中華とかでさ、もっと難しそうな料理ってあると思うんだよ。だけど技術的に難しいのは避けてラザニアを指定してきたのってさ、最近会えない日が続いてたから、俺のこと拘束したいのかな、って思ったりしたんだけど、これも違う?」
「違います」
あまりに答えるのが早すぎて、逆に怪しく響いてしまった。
「じゃあさ、俺が本当にラザニア作りに失敗するって思ってた?」
「…………」
さっきの反省もあって少し間を持たそうとしたけれど、今度は答えるタイミングを失ってしまった。
やっぱり噓をつくのは苦手ゆえに難しい。
沈黙の中、恋人に正直な気持ちをどのように伝えるのが正しいのかぐるぐる考えていると――
「ごめん、いじめすぎた。今日は千明さんの希望を優先します」
日向野くんが片手を耳の横に挙げて誓う。
「いえ、今日は日向野くんの好きにしていいです。ラザニアが、とてもおいしかったから」
本当はしたいのに、ラザニアを言い訳にしている僕はどこまでもひねくれ者だと思う。
殺し文句をさらっと吐くなぁ、と日向野くんは変なところで感心している。
「じゃあまあ、とりあえず、ベッドいこっか?」
二人で繰り広げたくだらない会話の最後、苦笑しながら日向野くんが手を差しだしてくる。
僕が嘘をあきらめたら、日向野くんも意地悪をやめてくれる。
僕はつられてすこし笑いながら、目の前にさしだされた日向野くんの手を握った。
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