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面と向かって力説されて怯むも、なんとか顔を寄せ合っていたところから距離を取り、姿勢を正して礼を告げる。羞恥で染まる頬をなんとかアルコールのせいにしようと、運ばれてきたばかりの満タンのジョッキを一気に半分ほどあおった。
「シネマ浪漫を読むのが、学生時代の俺の月一の楽しみ。その頃から光嶋さんのことが知りたくてたまらなかった。ずっと想像してたんだ。これを書いてる光嶋千明ってどんな人なんだろうって」
日向野くんが切り札として用意した、僕に興味を持った理由が判明した。
「想像してるだけでなく、当時に声をかけてくれたらよかったのに」
「俺だって光嶋千明には時を見て声をかけようと思ってたさ。でも劇場が突然つぶれたでしょ。冬休みに友達とスキー旅行に行って帰ってきて、風邪もらって寝こんでてさ。三週間ぶりにどうしても映画観たくなって、まだ治りきってない体を引きずって映画館に行ってみたら、もぬけの殻だよ。熱に浮かされた頭で悪夢でも見てるのかと一瞬思ったんだぜ。だって、そんな急な話ってある?」
力説して肩をすくめる日向野くんに、確かにそうだった、と過去を思いだして苦笑しながら頷いた。
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