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空色のシャツをまとった、長身に見合う引き締まった長い腕が、目の前で折られては伸ばされる。身振り手振り。おもしろおかしく映画の舞台裏を話してくれる日向野晴を前にして、僕はICレコーダーが回っていることも忘れ、テーブルに突っ伏して笑いこけてしまった。
僕が日向野くんにインタビューをするのは、これで三回目。彼はテレビドラマやテレビコマーシャルには出ない、純粋な映画俳優だ。
一回目のインタビューのときは知る人ぞ知る、という感じだったのが、二回目には最近よく映画に出てる、になって、三回目の今回は今注目の若手俳優のひとりへと急成長を遂げた。
「ねえねえ、光嶋さん。今夜ヒマ?」
「はい?」
テーブルに這いつくばり、笑いすぎて濡れた目元を拭っている僕の耳に、ビターチョコレートみたいな甘く低い声が吹きこまれる。その小声のわけは、僕たち以外の出版社の人間が聞く予定のICレコーダーに気を使ったからだろうけど、最近の機器の高性能を舐めてはいけない。小さいけれどこいつは、僕のバカ笑い後にテーブルで額をぶつけた音も、きみの仕事に関係ない内緒話も全部拾ってる。
「では最後に、この映画を観られる方にメッセージを」
「うわ、無視された。しかも光嶋さんらしくない事務的な話振られた」
また噴きだしそうになった口元を片手で隠し、姿勢を正す。
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