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 それが切り札か。  あきれつつも、期待に満ちた目で見つめてくる年下の男をちょっと愛しく思ってしまって、僕の口元はまたうっかりゆるんでいた。 「いいですよ。その理由を聞きたい」 「ほんと?」  人との食事なんて気が進まないけれど、彼の積極性と憎めない魅力にほだされて、一度くらいならいいかと思ってしまった。でも次また誘われるとか、そういうのは困るので。 「そのかわり年上の僕がごちそうします。でも店はきみが決めてください。僕は普段外食をしないので、こんな夜中にひらいている店を知らないから」  こう言っておけば次からは誘いづらくなるだろうと思った。向こうは年上という理由でおごられ続けることに気を使うだろうし、外食に慣れていないと伝えたことで僕の人付き合いの希薄さと内食好きもアピールできた。 「決まり」  指を鳴らして軽くウインクした日向野くんが、春らしい薄手のコートをはらりとまとう。まるで映画のワンシーンみたいに軽い足取りで出版社の会議室を出て行く後ろ姿を見て、自分の言葉の裏にこめたメッセージが伝わっているのか、少々不安になった。
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