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 肉は好き? と聞かれて、なんでも好きだと答えた。見た目は草食系なのにね、というなにげない感想を漏らしてから、日向野くんはタクシーの運転手に行き先を告げた。  夜の十一時。たどり着いたさきは、深夜にしか営業していないというホルモン焼きの店だった。異常な熱気と深夜とはにわかに信じがたい客の多さに驚く。狭い店内にもくもくと立ちのぼる煙が、建てつけの悪い引き戸から外に漏れだしている。普段めったに外食をしない僕にとっては、別の意味で敷居が高すぎる店だ。  だけどそんなことを思っていたのは、入店して十分ほどだった。座席についてしばらくすると視界を埋めつくす煙は不思議とまったく気にならなくなり、ほどよく冷えたジョッキのビールを一杯飲み干す頃には、うるさいくらいの店内の喧騒が心地よくなっていた。ただ問題なのは、うるさすぎて目の前にいる日向野くんの声が聞こえづらいことと、自分の声が日向野くんに届きづらいこと。 「おいしー?」 「ええ。肉は歯ごたえがあるのにほどよく柔らかくて、脂身がとても甘いです」  大声で尋ねられ、大声で答えると、日向野くんがふっと笑った。 「俺、光嶋さんの感想が好き」 「感想?」
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