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小さく手招きされて、二人顔を寄せ合う。距離が近づくことで胸のあたりがそわそわしたけれど、会話はぐっとしやすくなった。
「俺、光嶋さんのシネマ浪漫、第一回から全部読んでたんだ」
「え、嘘」
シネマ浪漫とは、僕がまだ大学に通いながら、今はつぶれてなくなった都内の小さな映画館で映写技師のアルバイトをしていた頃、月一回刷られる映画館の会員会報誌に連載していた映画コラムだ。それは今の僕の二つあるうちの片方の職業である、フリーランスの映画評論家になるきっかけとなったものであるのだが、それを知る者は映画業界や出版業界にもほとんどいない。
「嘘じゃないってば。うちにちゃんと会報誌残ってるし。あ、このあと見に来る?」
「行きません」
「即答かよ」
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