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 目の前で笑顔がはじける。目尻にできた小じわの一本すらも、彼の魅力を形成する一部となる。こんな類まれなる美青年が(はっきり言ってしまうと)小汚い店内にいて浮きまくっているというのに、周囲はまったく気にかけていない。酒と煙と喧騒で、酔っぱらいたちの感覚は鈍ってしまっているようだ。  そんな中、自分ひとりがふいの笑顔にどぎまぎしてしまっているのをごまかそうと、僕はジョッキの底に溜まった少ないビールを飲み干して、目が合った多忙な店員におかわりを要求した。 「シネマ浪漫を書いていたのは、今から十年以上前ですよ? きみは当時、まだ中高生だったでしょう」  僕が大学に通っていた四年間の連載だったから、五歳年下の日向野くんは、まだ俳優デビュー前で制服を着ていたはずだ。 「俺、高校まであの映画館の近所に住んでたの。小っちゃいときから映画好きの親父にしょっちゅう連れてってもらったし」 「そう、だったんですか……」  流れの中のなにげない単語にどきっとして、言葉がつかえてしまった。
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