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どうだか。いぶかしんで見せると、日向野くんはきりっと整った眉を器用に片側だけひょいと持ち上げた。
「ネットとかでさ、ある映画に最低評価がついたりするの、光嶋さんどう思う?」
「どうって」
唐突な質問に首をひねるが、どう思うもなにも、すぐに答えは出てくる。
「どうも思わないですけど」
「でしょ?」
なにがそんなに嬉しいことがあるのか、指を鳴らしたあと、おいしそうにビールをぐびぐび飲む。嚥下にともなう喉仏の怖いくらいなめらかな動きを見るともなしに見ていると、またぐっと顔が近づいてきた。
「光嶋千明は周りの評価に迎合しない。みんなこぞって悪口並べ立てるような一般的な駄作と呼ばれるものをけなしたりしないし、巨匠と呼ばれる人の作品をむやみやたらにほめたりしないの。それは周囲に対する反発でも目立ちたがり屋なわけでもなく、あくまで個人的な感想なんだ。純粋に映画を観た人の、純粋でまっすぐな感想。すごい、って思った。ここまで大衆を気にしないで、鋭くて、映画に対する愛のこもった批評を書ける人が今の時代にもいるんだって、あなたの文章を読むたびに感動する」
「それは、どうもありがとう」
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