レンタル

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 俺は、何でも屋だ。引っ越しの手伝いや害虫駆除、身辺調査からペットの世話に至るまで、客の要望通りに俺の時間をレンタルしているわけだ。俺の1時間は3000円になる。(別途追加料金有)コンビニでレジ打ちをするよりもよっぽど有意義である。    俺は深夜の2時に社用ケータイの音で叩き起こされた。なんでも、急を要する仕事らしい。ここで客を待たせては何でも屋の信用に関わる。俺は、急いで白いバンに乗り込み信号無視もなんのその、依頼主のもとへ急いだ。  ボロアパートに到着し、チャイムを鳴らすや否や、ドアが勢いよく開き、客の男がすがりついてきた。俺は、男を宥め、話を聞いた。  男は、夜テレビを見ていた。心霊特集だ。よくある安っぽい映像を見ながら、飯を食い、シャワーを浴び、布団に入った。  電気を消して、うつらうつらしていると、瞼の裏にテレビで見た血まみれの女が現れたのだ。目を開くと誰もいない。しかし、目を閉じてしばらくすると恐ろしい妄想をしてしまう。冷蔵庫の運転音が妙に気になる。玄関のドアは今にも開く気がする。  男は電気をつけ、ゆっくり深呼吸をした。そして、トイレに行こうと立ち上がった。そして、トイレのドアノブに手をかけた瞬間、想像してしまったのだ。ドアの向こうで、錆びたハサミを持った女が立っている姿を。いや、あり得ないこととは分かっている。しかし、想像してしまったのだ。  男は、自分の住む部屋が急に恐ろしく思えた。部屋中から視線を感じ、部屋の隅に逃げた。しかし、壁の奥から何かが現れる気がした。男は気が狂いそうになった。  男には親しい友人も彼女もいなかった。ふと、机を見ると、駅前でもらった何でも屋のポケットティッシュが目に入った。そこで、俺に電話をかけたというわけだ。  ばかばかしい。実にばかばかしい。男の息は酒気を帯びている。どうせ、酒の飲み過ぎだ。男に代わってトイレのドアを開ける。そして、男が用を出し終えるまで部屋で待ってやる。これが俺の今晩の仕事だ。なんて楽な仕事だ。  俺は、靴を脱ぎ捨てて部屋に上がると、トイレのドアノブに手をかけ、勢いよくドアを開けた。  いた。  俺はドアを閉めた。玄関に目をやると、男は心配そうな顔でこちらの様子を伺っている。俺はもう一度、今度はゆっくりトイレのドアを開けた。  女が  ハサミを持って  こちらを向いて立っている。 俺はドアをゆっくり閉めた。が、閉め切る直前に真っ白い指がドアをこじ開けた。  俺は全力でドアを閉める。  女は全力でドアを開ける。  男は異変に気付き慌てふためいている。  俺は、必死にドアを押さえ続けた。1秒が数分にも感じた。男はどうしていいか分からずオロオロしている。  どれくらい経っただろう。女の指が、徐々に、薄く透明になっていく。ゆっくり、だんだんと、透明になって、完全に消えたと同時にドアは勢いよく閉まった。    ドアの隙間から中を覗くと、誰もいない。ドアを恐る恐る開く。やはり、誰もいない。  俺は依頼人の男を呼んだ。 「誰もいませんよ」  男は不満げだった。俺は軽いジョークだと説明して、男が用を足すのを待った。  男がトイレから出ると、俺は料金の説明をした。1時間分の料金3000円に加え、急ぎの用事ということで当日料金1000円。トイレ関連は水回り料金1000円深夜料金50%。占めて7500円である。  男はすんなりと金を払った。俺は、次回500円割引券を男に渡し、アパートを後にした。    自宅兼事務所に戻った俺は、確信していた。男は、必ず再び依頼をしてくるだろう。そして、あの女はまた現れるだろう。  ドアを押さえ続けて、腕が痺れている。  俺は、腕立て伏せをしてから寝た。    
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