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僕は友人にあるものを借りに行った。
でも君は家にいなかった。でも大したものじゃなかったから僕は借りに来たものを勝手に持ち出す。
怒るような人じゃないし、と友人に甘えたのだ。
そのまま僕は誰もない海へ来た。
海の青さは奥深くて、今にも空は泣きそうだ。
……雨の匂いがする。
べっとりとした空気と暗くなった空に僕は笑った。
これで終わりだ。
――僕はここに死にに来た。
だから、借りたこれ は返せそうにない。
ごめん。
でも君も受け取ってはくれないじゃないか。
……君もこれで死んだんだから。このナイフで。
君の血液がこびりついて鼻を刺すような匂いのするナイフに、僕はそっと目を伏せた。
どうして一人でこの結末を選んだんだよ……。
後悔が頬を垂れる。暖かい液と、空からの冷たい液が肌をぐちゃぐちゃにしていくのを感じながら僕は、ナイフを握りなおした。
切って崖から落ちる。
君が死んでからそう決めていた。君と同じ方法で、君に会いに行くと……。
ナイフ、借りるよ。返せないから貰うになるかな。
じゃあ僕が借りるのは、君の死ぬ勇気だ。
君に会いに行く勇気。
次会ったときは2人で笑おう。君が心から笑えるように僕が頑張るから。
だから僕が選ぶ結末に怒らないでくれ。
今、行くから――。
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