3、ある恋人たちの悩み

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「ご心配なく。当店は、ご利用中は時間が全く進みません。止まっている状態なのです。」 私がそう言うと、まだ全て理解できていないような顔をしていた。 「そう、なんですか…?」 女性が不安げに聞き、私は頷いた。 「怪しい店ではありませんよ。外に出ていただければ、自ずと分かります。出てみますか?」 私が提案すると2人は頷いた。 入口まで案内し、ドアを開ける。チリリン、とドアベルが鳴る。 2人が来た時刻は、午後4時。本来なら、オーダーのメニューを作っている時間を入れて、空が暗くなっていても不思議じゃない。 しかし、外は夕焼けのままだった。 「……本当に時間が経ってないんですね。」 男性が納得したように言い、女性も納得したように頷いた。 「それでは、中に入りましょう。」 私が促すと2人は頷いて中に入った。座っていたテーブル席に戻る。 「納得がいくまで、話し合えるといいですね。」 そう言うと、2人は会釈した。 私は席を外し、店の奥へ向かい、さっきのメニューの後片付けをした。 それが終わると、いつものようにメモを手に取った。花言葉やお客様の名前を書きとめるためだ。 (今は少し様子を見ることにしましょう。) カウンターで2人の様子をちらりと見たあとにそう思った。
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