君を想う2

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君を想う2

「――蛇希(だき)好きなの?」  だが優也のその言葉にもう一度彼の方を見遣る。 「えぇ。毎日聴いてる」 「僕も好きなんだよね。良かったら聴く?」  そう尋ねながらイヤホンのもう片方を差し出す優也。それを見ると今度は笑みを浮かべながら女性はそのイヤホンを受け取った。 「ありがとう」  初めは少し不審に思う気持ちもあったが、好きが同じ人と出会うのが嫌なはずは無かった。少なくとも今の優也は嬉しさの方が大きい。  そんな蛇希というアーティストが好きという共通点だけしかない、それしか知らない見ず知らずの女性とイヤホンを分け合った優也はお酒を飲みながらいくつかのMVを一緒に観賞した。  ほんの少し前まで互いの事はおろか存在すら知らなかった者同士。だが共通の好きは二人をあっという間に親しくさせ、何杯目かのお酒が出されてもその話題で盛り上がり続けていた。 「でもあたしはドレッドの方が好きだな」 「分かるよ。分かる。ドレッドの方が印象強いし何より似合い過ぎてるから。だけど、だからこそやっぱこういうのも似合うなって思うんだよね。あと僕、sheep saturday結構好きだからそれもあるのかも」 「確かにあれもドレッドじゃなかったもんね。あたしあれの冒頭好きなのよね」 「屋上で始まるところ?」 「そうそう」 「分かる! 分かる! あとさっき話してた曲の蛇希が出て来て横に並ぶとことかよくない?」 「それ! あたしも最初見た時いいなぁーって思って巻き戻した」  ....  楽しい話をしているとお酒も進み、それで更に話が盛り上がる。酔いと蛇希の話ですっかり気持ちよくなった二人は再びイヤホンを分け合いMVを観ていた。  すると女性は視線をスマホに向けたままお箸を手に取ると自然な手運びで優也の料理を一口。それに気が付いた優也は目の前にあったお皿を彼女の方へそっと滑らせた。それで彼女も気が付いたのだろうハッとした表情を浮かべた。
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