君を想う3

1/1
前へ
/95ページ
次へ

君を想う3

「あっ! ごめんなさい。夢中になっちゃってて、つい。何も考えて無くて」 「いいよ。好きなだけ食べて」 「ありがあと。それじゃあ、お返しにあたしのも……」  女性はそう言いながら自分の前にあるお皿から料理を一つ取ると下に手を添えながら抵抗なく優也の口へ運んだ。優也はその彼女からもらった料理を味わいながら頷くように顔を動かし飲み込む。 「どうやら君は料理を選ぶセンスもいいみたいだ」 「それはありがとうございます。でもあなたもいいわよ」 「それはありがとうございます」  少しふざけて見せた彼女を真似るように優也が返すと二人は同時に吹き出すように笑い合った。  そして改めるように軽い乾杯を交わしお酒を飲む。初めて会ったのにも関わらずお酒と蛇希で一気に距離が縮まった二人はアルコールで覚束ない足取りのままお店を出るとタクシーを捕まえ優也の家へと向かった。あまりいいとは言えない部屋に入り電気を付けると程よく片付いた空間が姿を現す。 「んー。意外と綺麗だけど、意外と狭いわね」 「独り身はこれぐらいで十分だよ」  すると女性は一歩踏み出そうとするも覚束ない足取りの所為で自分の足に引っかかり前へ倒れそうになった。だが前に立っていた優也がそんな彼女をしっかりと受け止めた。抱きしめられるような体勢になった女性は上を向き優也と顔を見合わせる。 「――ありがとう」  その言葉を最後に静まり返る部屋。二人は沈黙による妙な空気が流れる中、見つめ合い、そして引き寄せられるように顔を近付ける。無言のままただ相手の目を見つめ徐々に近づく顔。それと同時に優也の手は女性の背に、女性の手は優也の顔へ伸びていく。  そして相手の呼吸が感じられる程に、鼻が触れてしまいそうな程に距離が近づくとそのまま言葉は交わさず唇を重ね合った。一度目は優しくそして軽く。二度目は少し長めに。それから燃え上がる炎のように情熱的なキスを交わしながら部屋を移動すると、二人で寝るには少し狭いベッドへと倒れた。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加