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君を想う6
「いいよ。さぁーて、じゃあ格の違いってやつを見せてあげるとするか」
「おっ! ハードル上げるねぇ。期待しよっと」
そして意気揚々と立ち上がった優也はキッチンに立ちまだ熱を帯びるフライパンにパンケーキの素を注ぎ込んだ。
「んー。もしかしてさっきの上手いはお世辞だった? ほんとは焼き加減が足りなかったんじゃない?」
そう少し意地悪く言う夏希の前にあったのは、食べ物かと疑いたくなる程に真っ黒に焦げたパンケーキ――の形をしたやつ。白いお皿も相俟ってかそれはより一層異物感を醸し出していた。
「そ、そうなんだよ。実はこれぐらいちゃんと焼けてないと嫌なんだよね」
優也はそう言いながら黒く丸いそれを少し切り恐る恐る口に運ぶ。だがその黒いやつが口に入った瞬間、優也の体は拒否反応を起こしすぐにそれを吐き出した。
「うぇ! にっ、まっず!」
噛むことはおろか口に入っただけで吐き出したそれを片手に流し台へすぐさま向かった。優也は唾を吐き水で口を洗う。その後ろで夏希は声を出して笑っていた。
「そんなに?」
「なんか焦げの塊食べてる気分」
「うぅ~。それはまずそう。あたしは遠慮しようかな」
「それが賢明だね」
最後に珈琲で口の中をリセットした優也は黒い物体が乗ったお皿を流し台の隅に置き夏希の向かいに腰を下ろす。
「やっぱりパンケーキは君の方が上手いらしい。それとこれは誓って言うけどいつもはあんなに焦げないから」
「はいはい。それじゃ不器用さんの為にあたしが美味しいパンケーキを焼いてあげましょう」
流すようにそう言った夏希は立ち上がり追加のパンケーキを焼く為、キッチンに立つ。そして最初を再現するように見事なパンケーキを焼いた夏希はそれぞれの前にそのパンケーキが乗ったお皿を置いた。
「ん~。君はパンケーキ屋さんをやるべきだと思うんだけど?」
「まぁあなたよりはお客を呼べるかもね」
「あれの後に言われたら言い返せないよ。でもいつかリベンジしてみせる」
「挑戦はいつでも受け付けるわよ」
そしてペロリと2枚目も食べ終わった2人はもう1杯の珈琲で一息ついた。
「そうだ折角だし連絡交換しない?」
「いいけどもう昨日交換してるかも」
「その可能性もあるけど、まずはスマホを見てみようか」
二人はズボンのポケットからスマホを取り出した。手帳型のスマホケースを開き画面を付ける。そしてロック画面を開こうとするがなぜか開かない。もう一度試すがやはり開かなかった。
「あれ? 開かない」
どうやらそれは夏希も同じらしい。
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