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君を想う7
「僕も。なんで? もしかして昨日酔っぱらってなんか変えた?」
そう呟きながらもう一度試すがダメ。
「ちょっと待って。それ……」
すると夏希が優也の持つスマホを指差した。それを見ると疑問符を頭上に浮かべながらもとりあえずスマホケースを閉じて確認するとそれは見覚えのない手帳型ケースだった。
「これ僕のじゃない。だとしたらもしかして……」
優也の頭にはバーで他の客のを間違えて持ってきてしまったのではないかという可能性が思い浮かぶ。だが現実はもっと心配する必要のない理由だった。
「それあたしの」
「え? じゃあ君の持ってるのは」
その言葉に夏希は手に持っていたスマホを見せる。それは優也の物だった。
「それ僕のだ」
「何であなたがあたしが持ってるの?」
「いや、さぁ? ――というかこれ僕のズボンだよな?」
少し慌てながら自分の穿いているズボンを確認するがそれは確かに自分のだった。
「まぁ記憶の無いところで間違ったのかもね」
「ないとは言えない。にしてもこの待ち受け」
優也は手に持つ彼女のスマホをつけ待ち受けを再度確認した。それは夏希も同じ。
「だからあたしもすぐには気が付かなったのかも」
そして二人は互いのスマホを受け取り自分の待ち受けを確認するように見る。
「まさか同じ待ち受けなんてね」
「蛇希で被るのは分かるけど、まさか同じ画像だんて」
二人が同時に見せ合ったスマホの待ち受け画面は全く同じものだった。それはマイクを握るドレットヘアの蛇希。それからまだしていなかった連絡先を交換した。
「でも不思議ね。何だか昨日会ったばっかりとは思えない」
「昨日会ったにしては色々あったから」
「ほんと色々ね」
少しだけ沈黙を挟んだ後、夏希が続けた。
「ねぇ。良かったら今夜もあのバーに行かない?」
「もしかしてそれって遠回しに誘っ」
「それはない」
優也の言葉を夏希の言葉が喰い遮った。
「それは分かってる。――でも今夜はちょっと無理かな」
「そう残念ね」
そう言うと夏希は残りの珈琲を飲み干し立ち上がった。
「それじゃああたし、そろそろ帰るわね。あんまり長居しても悪いし」
「それは全然大丈夫だけど……うん、分かった」
そして自分の荷物を持った夏美を玄関まで見送る優也。
「まぁ何て言うんだろう。覚えてる限りでは楽しかったよ」
「覚えてる限りだけ?」
夏希はわざとらしく首を傾げ意地悪をするように尋ねる。
「いや……。そう言う意味じゃないけど。覚えてないから何とも言えないというか。でも君は素敵な女性だからきっとずっと楽しかったと思うよ。うん」
すると彼女は堪えきれないというように笑い出した。
「冗談よ。でもあたしも楽しかった。――それじゃあ行くわね」
「気を付けて」
どこかもどかしいような雰囲気のまま夏希はドアを開けるとそのまま外へ出て行った。少しずつ遠ざかる足音。
すると優也は閉まり切ったドアを開け階段へ続く通路を見た。
「夏希! ……さん」
付け足すようにさん付けをした呼び声に夏希は足を止め振り返った。
「今夜は無理だけど明日は。明日の夜またあのバーでどう?」
「――明日の夜ね。いいわよ。また連絡する」
その言葉を残し夏希は行ってしまった。
そしてその後ろ姿を見送った優也は家へ戻るとドアに背を預け彼女のことを思い出した。それから先程した約束を思い返すと自然と笑みが零れた。
「明日の夜か」
笑みを浮かべたまま呟いた優也はそれからの時間を適当に過ごし夜のバイトへと向かった。
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