君を想う8

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君を想う8

 そして約束の日。朝から時間を決めるやり取りをしていた二人は、昼になる頃には大まかな時間を決め終え後は待つだけ。  優也が昨夜のとは違うバイトを終えた頃には既に日は沈み約束の時間が近づいていた。だがまだ時間があった優也は一度家に戻りお風呂に入り身支度を済ませる。鼻歌を歌いながら普段は適当な髪を少し丁寧に整えると時間を確認した。 「そろそろか」  一人でそう呟き家を出てあのバーへ向かった。ドアを開け中に入ると彼女が来ていないかざっと見渡したがどこにもその姿は見当たらない。もう一度時間を確認するとまだほんの少しだけ早いことに気が付き約束の時間まで待つことにした。  それから適当なテーブル席に座り彼女を待つ。ビールだけを頼みただひたすら時間の経過を待ち何度もスマホを見た。  そして何度目か分からない時間の確認をする為にスマホを見ると時刻は約束の時間を指していた。  だが彼女は中々現れず次にスマホを見る頃、時間は約束を既に通り過ぎている。若干の不安に駆られはしたが、今の彼に出来ることはビールを飲みながらただ待つことだけ。  するとスマホを置きビールを一口飲んだところで店のドアが開く。約束の時間を迎えてから店のドアが開く度に期待と共に視線を向けていた優也は今回もまだ輝く期待を胸にドアを見た。  だが入って来たのは見知らぬ男。その姿にガッカリしながら視線をビールへと戻す。  もしかしたら来ないのかもしれない。  そんな悲観的な考えが頭を過ったその時、 「あっ! 居た居た!」  聞き覚えのある声が聞こえ入り口の方へ顔を向けると夏希が手を上げながら近づいて来ていた。 「ごめんね。遅れちゃって。ちょっとだけ仕事が長引いちゃって」  夏希は謝りながらコートを脱ぎ席に座った。 「いや、全然大丈夫。あと一時間は待ってられたから」  今では先程までの不安はすっかり消え安堵と嬉しさで満たされた優也は冗談を言うぐらいの余裕を取り戻していた。 「ほんとに? それじゃあ急いで来なければ良かった」 「機嫌の保証できないけど」 「なら今度から気を付けないと」 「ちなみに君の場合は遅れたらどうなる? 参考までに聞いておきたくて」 「そうね……。遅れてみれば分かるわよ」  言葉と共に意味深な笑みを浮かべて見せる夏希。 「なるほど。君との約束には遅れない方が良さそうだ」 「それが賢明ね」 「さて何飲む?」  彼女から飲むものを聞いた優也は適当な料理と一緒にそれを注文。そして少し話をしている間に彼らのテーブルには二人分のお酒と先に頼んでいた料理が出揃った。
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