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エピローグ
肩を抱いて、しばらく過ごした。
「……」
ふと、目を覚ました心春はオレを見上げた。
また泣くかな、と思ったら。
オレから少し視線がずれて……。
何かを見ていた心春は、不意に眩しそうに目を細めた。
それから、ゆっくりと、微笑んだ。
「……伊織……」
心春が立ちあがって、桜の樹に触れて、見上げる。
そこで、オレも、気づいた。
オレ達が今、寄りかかって座っていた桜が
つぼみのまま、咲いていなかった、桜が。
一気に、満開になっていた。
―――……この樹は、二人を、ずっと見てたんだな、と。
何となく、ぼんやり、そう思った。
「伊織」
「……ん?」
桜を見ていた心春が、オレを振り返る。
「……ありがとう」
そう言って、心春は、笑った。
その笑顔は。
今まで見た中で、いちばんで。
ほんとうに、悠斗が言ったとおりに。
花が咲くみたいに、ふわっと。
そんな、笑顔だった。
-Fin-
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