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制服に着替えて身支度を整えた後、朝ごはんを作るためにリビングに顔を出した。
「おはよう」
ぎこちなく挨拶をすると、お母さんは「おはよう」といつも通りの挨拶を返してくれる。お母さんは昨日みたいにキッチンに立っていて、私は少しだけ緊張してしまう。怒られたわけでもないのに、そんな風になってしまう自分が嫌だった。おばあちゃんはもうご飯を食べ終えたのか、リビングにはいなかった。
けれど、ダイニングテーブルの上に二人分のお皿が並んでいることに気付く。
「あれ、おばあちゃんまだ起きてないの?」
「ううん。それは晴子の分」
「え、でも朝ごはんは私で作るって」
また幻滅されちゃったのかと心配になる。お母さんがキッチンから二つの牛乳が入ったコップを持ってきて、テーブルに置いた。
「今日は晴子の分も作りたくて」
「え?」
「昨日、無理しないでって言ったけど」
うん、と相槌を打つ。
「いつも本当にありがとうって、言いたくて」
私はぽかんとしてしまう。そんなことを言われるとは思わなかった。
「私が仕事していることを気遣ってくれて、ありがとうって言ってないなって昨日の夜に気付いたの。受験も、学校も、部活もで大変でしょう。家事まで無理しなくていいんだからね」
昨日何度も頭で繰り返した言葉が、ゆるゆるとほどけていくのがわかる。お母さんに大変だと思われたら、手伝わないでと言われるかもしれないと思っていた。
パートが夜勤のときは一緒にご飯を食べられなかったり、お父さんが家にいた小学生のときと比べて一緒にいる時間も少なくなったりしていた。お母さんとの関わりが減って、お手伝いをすることで安心感を得ていたんだと思う。けれど、そういうことをしなくても、当たり前にお母さんは私を大切に思ってくれている。
「うん、ありがとう、お母さん」
そんな風に返して、椅子に座った。朝はお互い出る時間が違うから、一緒に食べてなかった。久しぶりに朝の日差しを浴びながら同じ食卓を囲んでいる。トーストにサラダ、ベーコンエッグに牛乳。お母さんも目の前の椅子に腰を掛ける。手を合わせて、二人で言う。
「「いただきます」」
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