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 結局、次の日になっても凛たちは何も言ってこなかった。今日は早く帰るのか、と昼休みに聞きに行くと、そうしたいと言われたので、上山先生と相談の席を設けたいことを伝えた。嫌な顔をされたものの、周りの目もあってか了承を得ることができたので、とりあえずは一段落つけたように思う。結局、凛たちが片付けを故意にしなかったのかはわからなかった。これ以上大きな問題にしたくなくて、追求はしなかった。  五時間目の体育はマット運動の予定だ。マット運動は不評で、もう早く次やる予定のサッカーがしたいという声が多く挙がっていた。更衣室に割り当てられている予備教室で、昼休み中に着替えなければならない。 「晴子、着替えに行こ」  教室に帰ると、まどかに声をかけられる。  西城まどかは中学に上がってからずっと同じクラスで、一番仲が良い友達だ。吹奏楽部の部長をしていて、部長つながりで話すことも多かった。  ジャージが入ったバッグを持って予備教室にいくと、何人かはすでに着替えていたようだった。近くの机にバッグを置き、着替え始める。 「マット運動ホントめんどいわ」  まどかはそう愚痴りながらブレザーの上着を脱ぐ。 「動く時間少なくて私は好きだけどなぁ」 「マジ? なんで前転とか後転とかしなきゃいけないのか理解できないもん」  一度にやる人数少ないから目立つしさ、と続ける。それは確かにあるなぁ、と話していると、近くにあまり話さない女の子たちが来たことに気付く。まあまあ広い教室なのにどうしてこっちに来たんだろうと不思議に思いながらも会話を続けていると、こそこそと言い合いながらこちらを見ていることに気付く。 「どしたの、晴子」  上の空になってしまっていた。声をかけられて、ごめん、とまどかの方を向く。 「ねぇねぇ、晴子ちゃんさ」 「え、ちょっと」 「大丈夫だって明奈。いけるいける」  確か前に水谷に挨拶をしていた女子テニス部の子たちだった。明奈と呼ばれた子がこちらに押しやられる。話したことがあまりないので驚いて声が出ないでいると、隣にいたまどかが代わりに「どうしたの」と聞いてくれる。 「いやさ」 「ねぇ!」  いたずらっぽく笑ってこちらに話しかけようとするのだが、明奈ちゃんがそれを恥ずかしそうにして止めるので、中々話が進まない。ようやく「どうしたの?」と声が出る。 「もー、晴子ちゃんは言いふらしたりしないから大丈夫だって。ね、まどかちゃん」 「え? まぁ、口堅いよね」  まどかがこちらを見るので、とりあえず頷いておいた。その様子を見て安心したのか、明奈ちゃんが私と目を合わせる。目をそらすこともできずに、会話を続けようとする。 「何かあった?」 「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど……」  目をふっとそらして、すぐこちらを見る。不安げな目だったのが、真剣そうな目に変わる。 「晴子ちゃんと、……水谷くんって、幼なじみ、なんだよね?」  予想外の名前が出てきて、え、としか声が出ない。間ができて変な空気になってしまうのも嫌で、うん、と肯定する。 「そ、そうだよね」  その後も質問が続くのかと思っていたら、会話が止まったので戸惑っていると、隣にいた子がぐい、と身体を乗り出す。 「付き合ってるの? 二人って」  付き合っている、という単語に、全員が反応する。私は何も言えず、まどかが「へっ?」とよくわからない声を出し、明奈ちゃんが呆れた顔をしていた。 「だってさ、幼なじみで、部活も同じで、部長副部長でしょ。しかも同じクラスになってからしょっちゅう一緒にいるって話じゃん」  そういうことじゃないの、とからかうように言うので、びっくりしてしまう。けれど、黙るのも違うかなと思い、答える。 「付き合ってないよ」 「えー、そうなんだ。よかったね、明奈」 「もう、無理に聞かなくてよかったのに」  そうニコニコして明奈ちゃんに言うので、私とまどかは察して、代表してまどかが真偽を確かめてくれる。 「え、明奈ちゃんって、そうなの?」  少しだけ声を潜めて聞くと、明奈ちゃんが観念したように困り眉になりながら答えてくれる。 「うん、まぁ、そうというか、なんというか」  マジか、とまどかが答える。 「とにかく、ほんとごめんね! 着替えてるときに」  じゃあ、と明奈ちゃんは隣の子の腕を引いて、自分たちの着替えが置いてあるところまで戻っていった。 「そうだったんだね」  私が言うと、まどかは「ほんとね」と少し呆れたような顔をして答えた。
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