プロローグ

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「あの月をぶん殴ってやりに行くんだ」  昔、そんな言葉を聞いたことがある。  映画か何かのセリフだったか、はたまた別の何かだったか……詳しく思い出すことはできない。 けれどその言葉は僕の脳裏に、心に、深く刻み込まれ未だに消えずに残っている。 『この世界においての唯一の物語』などというものがもしあったとしたら、その物語の主人公はそんなセリフを吐くような人物かもしれない。 そしてもしその言葉通りに月をぶん殴ってやったりしたら、きっと世界はその人物のことを無視することはできないだろう。  その者は英雄となるか。  それとも罪人となるか。  多くの目を、熱を、感情を一身に受け、きっと良くも悪くも世界の中心となってしまうだろう。  そんな人物、そんな物語の主人公に僕は憧れた。  いつの頃だろう?  そんな憧れを抱き始めたのは。  そしていつの頃だろう?  そんな憧れは所詮憧れでしかないと悟ったのは。  僕があらゆるものを諦めてしまったのは、いつの頃だろう?
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