プロローグ

3/4
前へ
/592ページ
次へ
 目を瞑ると思い浮かぶのは嫌味なほどに綺麗な星空。  雲一つない夜空に数多の星が瞬き、その合間を幾筋もの星の光が流れていく。   そんな星空を見上げる僕。  息を切らし、汗を浮かべ、身体のあちらこちらが擦り剝け血が滲む。顔は情けなく歪み、その両の瞳からは涙がぼろぼろと零れ落ちる。  滲みぼやける視界、その視線の先には月が浮かぶ。  淡く青白い光を湛えるその月は僕になんて何の興味もなさそうに無感情な顔で僕を見下ろしてくる。  等しく降り注がれるはずのその月光は僕を照らさず、この身体を透過していくようだ。  そんな月を見上げながら小さくぼそりと呟くのはとある少女の名前。  頭に浮かぶ少女の表情、仕草、声……僕に向けられる真っ直ぐな瞳。  それは僕の胸を締め付け、痛みとなって僕を蝕む。口からは嗚咽が漏れ、より一層の涙が溢れ出てくる。  嫌悪感と喪失感、そして諦観の入り混じった感情。  耐え難い苦痛。  けれどそれでも少女の姿は消えてはくれない。むしろより鮮明になっていき、僕の中の感情も大きくなっていく。  ぼそりともう一度その少女の名前を呟いた。  けれどその声は少女に届くことはなく、星空へ、月へと消え、そしてその記憶の中の光景も消えた。
/592ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加